泥棒・詐欺師犯罪例から考える防犯対策

実際にあった泥棒や詐欺のリアルな手口を犯罪者側の目線で物語風にご紹介。犯罪から身を守る手法を身につける参考にお役立てください。

高級外車の中古車で保険金詐欺する男

私が都内住宅地にある某外車販売会社にディーラーとして入社したのは今から16年前、のことでした。

売れ行きは好調。ー力月 平均10台、利益率にして12%前後 というかなりの成績を収め、ー年 に2回は家族でー週間のハワイ旅 行や都内一流ホテルでのディナーショー、毎月行われる販売台数キ ャンペーンや保険キャンペー ンでは、数万円単位の商品券を臨 時収入として得ていました。

実績を上げ出世するのは当然の話で、役職も営業係長、課長、店長とトントン拍子にジャンプアップ。幹部の椅子に座れるのも、遠い将来ではないと確信していたものです。 しかし、バブルがはじけて以降、 長く続く不況で販売台数が上がらなくなると、営業は数字が命とばかりに今までの実績など何処へやら、何とかリストラだけは免れたものの、中古車部門への異動を言い渡されました。

自動車販売会社、特に輸入車販売の場合は新車営業部門が花形で、 中古車部門は新車が思うように売れない営業マンの回されるところ。 明らかな左遷です。

しかも、私の 場合は今まで店長として18人の部下を統括してきたものがー転、たったー人で仕入れと販売を担当、 雀の涙の予算で実績を上げよとのこと。これで落ち込むな、というほうが無理な話です。

しかし、私には養わなけれはな らない家族がありました。収入がよかったころに有名私立小学校に入れた子供のためにも、少しでも多く稼がねばならない。自暴自棄になってる余裕はどこにもありませんでした。それか今かり3年前の夏のことです。 

自動車販売会社の給与体系は、 基本給十歩合。基本給は年齢に関係なく10万から20万で、インセンティブが大半しめます。

例えば中古担当の営業マンの場合、ー台売れるとその粗利に対し て10%が取り分になり、仮に200万円の車をー台販売して30万円の利益があったとすると3万円が懐に入るというわけです。

となると、月に300万以上の粗利益を上げられるよう頑張らないと生活が成り立たず、サラ金をつまむのも自然の成り行き。

会社の金に手をつけクビになったヤツ何人いたかわかりません。 そんなある日のこと、ー人のお客が慌てて店に入ってきました。

「あの車、見せてくれ」 話を聞くとこのミタさん(仮名)、 昨日仕入れて展示したばかりのフ オードを何力月間も探していたと 言うのです。 となれば話はこっちのもの。と んとん拍子に話は進み、あっという間に契約までこぎつけました。

我々営業マンは、自動車保険を取れば年間保険料の5%がもらえる ので、保険契約にも力を入れます。

「大切なお車ですから、保険は満額かけた方が安心ですよ」

そう言いながら標準価格表を取り出し、車種別価格を見てビックリ。保険会社が定めている価格が販売価格より遥かに高いのです。 

そこでピンときました。

〈こりゃ、金になるぞ〉

どういうことかといえば、車の購入者には保険への加入が義務つけられていますが、それは自分や通行人など人間を傷つけた際の補償のみ。

ほとんどのドライバーが、車体について補償 してくれる任意の車両保険にも入 っています。 問題はこの保険額で、車の販売 価格とは関係なく保険会社が定め た「法定償却率×新車価格十オプ ション価格」プラス マイナス20、 30万と決まっているのです。 ただ、ほとんどの国産車は販売 価格が保険額と大差ないためウマ ミはありません。が、輸入車は実 際の取引価格と保険価格に大きな 差が生じるケースがあるのです。

マニアに人気のヴィンテージ車 など信じられないくらい高いい金額 で取引されていますし、逆に新しくても人気がないため安価で取引されている車種もあります。

しかし、保険会社はこの特性をいちいち設定するのが面倒なのか、 すべての輸入車を高い金額で設定しているのです。 例えば、新車で600万はする シト口エンxMなど、フランス本国では大統領の公用車としても使われる人気ですが、日本では3年落ち程度で100万 そこそこ。なのに車両保険の標準価格は280万。 ベンツの94年製も、一般的販売 価格が400万前後(仕入価格は 約300万)に対し、車両保険は 520万から680万までの範囲 で自由にかけられます。 もし仮に、このベンツを300 万で入手、満額680万をかけて 事故を起こしたらどうでしよう。 「全損(廃車)」に持ち込めば保険会社から680万が振り込まれ、 労せずに380万の金を手にでき るのです。 

しかし、ここで問題。アジャスターと呼ばれる査定士が報告されている事故状況と車の状能に食い違いがないかチェックする上、故意とはいえ事故を起こせば怪我をする可能性もあります。

さらに、痛い思いをしても全損にならないかもしれません。

リスクが大きい上、不確定要素も多く、実行に移すのはムリ。いったんはそうあきらめました。 
ー力月後思いもよらない話とともにミタさんが店に現れました。 3日前に直撃した大型台風の影響で、車が完全に水没してしまったので前回と同じフォードを探してほしいというのです。 やっと手に入れた車。ミタさん が保墜云社に間い合わせると、水没したときの状況を正確に報告し、 全損と認定、

「へ、別に車をぶつけなくても全損にできるんだ」
私の中に、保険金詐欺への新たな意欲が湧いてきました。なにも実際に車を潰さなくても、保険の定義上、「潰れた状態」にすればいいのです。
そこで、今までは一度も読んだことのない約款を熟読。結果、わかったのは「××についての保険金は支払われません」という否定文の多さです。

ちなみに私が「全損」にこだわるのには、理由があります。保険金が支払われる際、険金額を下回る修理代の場合はその額から免
責金額(たいてい7万円)を引いた金額が振り込まれます。
例えば、300万の契約で修理代が295万だとすると、そこから7万を引いた288万が実際に支払われるわけです。
シナリオを考え、手ぐすね挽いて待つ私に最初のチャンスが訪れたのは1カ月半後のこと。
あるお客さんの下取りを引き受け、新車から7年落ちの査定ダダ車が入庫することになったのですが、この車掩保険では180万もかけられるのです。
「欲しかった車なので譲ってもらえませんか」
こっそり近つき、会社を通さず取引したいと頼めば二つ返事で承諾。これで準備万端

すぐさま名義変更と保険契約を済ませて時期を待ちました。
1週間後、待ちに待った台風の到来です。大雨の中、水没しそうなところを探し回ると、とある国道と線路の交差点に見事な池ができているではありませんか。さっそく車を池に沈め、タクシーで帰宅。翌日、何気ない顔でレッカー車を手配し引き取りに行きました。
「何であんなとこに車を止めたか聞かれたらどうしようか」
ドキドキしながら保険金を甲請したところ、拍子抜けするほどあっさり180万が振り込みに。
「な-んだ、こんなにウマクいくならドンドンいくか」
ところが、ひとつ問題がありました。一度事故を起こすと、その後個力月以内
の同一名義人の保険契約は割増になる上、事故が多い場合は契約を拒否されることもあるとか。
そこで『友だち短期リース法』なるものを考え出しました。

めぼしい車が見つかれば友人名義で車の登録と保険を契約。2〜3カ月自由に乗ってもらったところで、客に見せると車を持ち出して懇意の自動車工場に持ち込み潰す。
すでに車を持っている連中がほとんどなので追加契約になりますが、2台目の車で事故を起こしても1台目の保険料には影響しないので問題はないはずです。
「個人で車のブローカーを始めたんだけど、駐車場代がバカになんないんだ。客がつくまで乗ってていいから預かってくれないかな」
信頼の置ける友人をピックアップし、話をもちかけました。と、国産車にしか乗ったことのないヤシらですから、外車に乗れると大喜び。まったく疑う様子もなく15人が快諾したのです。