泥棒・詐欺師犯罪例から考える防犯対策

実際にあった泥棒や詐欺のリアルな手口を犯罪者側の目線で物語風にご紹介。犯罪から身を守る手法を身につける参考にお役立てください。

セルフ内見で合いかぎを作って同じアパートの住人を信用させる詐欺師

近ごろの賃貸業界では「セルフ内見」が流行っていると聞く。
不動産屋のスタッフが同行せず、客ひとりで物件の内見をできるシステムのことだ。
 
こういうニュースを耳にする
と、俺のような悪い人間は、す
ぐによからぬことを思いつく。
セルフ内見を悪用すれば、その
物件の合鍵を簡単に作れてしまうではないかと。
 
だって不動産屋のスタッフが
そばにいないのなら、鍵屋にだ
って、どこにだって自由に行け
てしまうのだから。
 
問題は、入手した合鍵で何ができるのか。
 
入居者が決まるまで待って、空き巣に入るとか?
 
いやいや、そんな悠長なのは
性に合わない。そもそも入居者
が決まった時点で、錠を交換さ
れたらおしまいではないか。う
ーん、なにかこの状況を活かす方法は…。
 
何日か悩んだ末、いいアイディアが浮かんだ。
 
実は俺、ここ10年ほど、ちょいちょい寸借サギをやってカネ
を得てきたのだが、その犯罪に
セルフ内見のシステムが使えそ
うに思えたのだ。よし、やってみますか。
 
まずは合鍵の入手だが、この役は嫁にやらせることにした。
なぜか。
 
セルフ内見をする際は、写真
付きの身分証を提示して、物件
の鍵を借りるパターンがほとん
ど。のちに悪事を働くのであれ
ば、俺以外の人間にやらせた方
がはるかに足はつきにくいはずだ。
 
嫁が作りたてほやほやの合鍵
を持って帰ってきた。
「不動産屋で鍵を借りたら、あ
とはホントに放置されるんだね。
ラクショーだったよ」
 
第一段階クリアだ。夜8時、入手した鍵の物件に
向かった。そこは単身者向けの
アパートだったが、この時間帯
ならすでに帰宅した住人もいる
だろう。
 
離れたところから確認すると、
1階角部屋の窓から電気の明か
りが漏れている。よし、あそこ
にしよう。
 
ドアをノックする。若い男が
顔を出した。雰囲気からして大
学生だろうか。
「あ、夜分にすいません。昨日、
ここの2階に引っ越してきた山
本と申します」
 
偽名を名乗ったところ、愛想
のいい声が飛んできた。
「あ、そうなんですか。わざわ
ざご苦労さまです。僕、藤本と
いいます」
 
さっそく本題だ。

「あのう、実は藤本さんにお願
いがありまして」
「なんでしょう?」
「実は1カ月ほど前にスクータ
ーを盗まれてしまったんですけ
ど、さっき警察から見つかった
と電話がありまして」
「ああ、良かったですね」
「はい。それでスクーターの捨
てられていた場所っていうのが
他所の家の敷地の中だったらし
くて、家主がいますぐに取りに
来てほしいと」
「はあ」
「だから、これからタクシーで
向かおうと思ってるんですけど、
実は財布を職場に忘れてきてし
まって現金が一銭もないんで
す」
 
このあたりからどんどん彼の
顔が曇っていった。
「初めて会う人にお願いするの
は失礼だとわかっているんです
が、3万円ほど貸していただけ
ないでしょうか。明日すぐ返し
ますので」

「いや、困ったな。タクシーで
行くと3万もかかるような場所
なんですか?」
「はい」


隣県の町の名前を教えると、
彼は「なるほど」と声をあげた
が、納得した様子はない。当然
だ。見知らぬ他人から3万円貸
してと言われて、簡単に信用す
る方が逆におかしいのである。
 
が、この流れはもちろん予想
済みだ。彼に言った。
「すいません、ちょっと2階ま
で来てもらえませんか?」
 
藤本青年を後ろに従えて階段
を上り、ポケットから嫁がゲッ
トした合鍵でドアのロックをカ
チャっと解除した。
「ご覧のとおり、間違いなくこ
の部屋の住人なので、逃げも隠
れもできません。借用書も書き
ますから、どうか信用してお金
を貸してください。明日必ずお
返しします」
 
深々と頭を下げたところ、彼
は財布から1万円札を3枚取り
出して、ニコニコと俺に手渡し
た。
「明日、ホントに返してくださ
いよ」
★ 
集合住宅にお住みの方、引っ
越してきた人物にも注意が必要
ですよ。