泥棒・詐欺師犯罪例から考える防犯対策

実際にあった泥棒や詐欺のリアルな手口を犯罪者側の目線で物語風にご紹介。犯罪から身を守る手法を身につける参考にお役立てください。

繁華街で流行しはじめているフル電動自転車専門の当たり屋にご注意

俺の特技は恐喝だ。他人の弱みを見つければ、すかさずそこを突いて現金にする。長い間、そうやってやさぐれて生きてきた。

これから書く内容は、偶然の出来事によって俺がひらめいたシノギだが、目撃していた知人がペラペラと口外したため、すでに地元の繁華街では模倣犯がポツポツと出はじめている。いずれ全国に広がる可能性もあるので、ぜひ目を通してもらいたい。

手口さえわかっていれば、被害者にならずに済むはずだ。
まずはコトの経緯から。 

ある夜、いつものように繁華街を歩いていたら、
いきなり左手に衝撃が走った。
自転車が隣りを通過した際、ハンドルが接触したのだ。
「痛ぇな! この野郎!」 

思わず怒鳴りつけると、相手の男はすぐに自転車を停め、ペコリと頭を下げた。こちらの剣幕にビックリしたらしい。
そのときふと、男の自転車がフル電動自転車(以下、フル電動と表記)であると気づいた。
実はフル電動はカネの木になり得るのではと、以前から注目していた。
フル電動は一見、ただの自転車だが、実際の性能はまるで違う。

バイクのようにスロットルを回せば、ペダルを漕がなくても時速30キロ以上で走行可能なため、日本の公道で運転するには、ナンバーを取得するなど手続きが必要。つまり、道交法上の扱いは原付きスクーターとまったく同じなのだ。

さらには自賠責保険の加入も必須で、未加入の場合はトンでもなく重い処罰が待っている。
1年以下の懲役、あるいは50万円以下の罰金だ。さらに免許を持ってる場合は一発で免停となる。
そんなわけでナンバープレートのないフル電動は、いかにも付け入るスキがありそうだと考えていたのだが、そこから先のプランがどうしても固まらない。
警官でもない俺が違法なフル電動を捕まえたとして、どう脅かしてカネを巻き上げるのか。そもそも猛スピードで走るフル電動をとっ捕まえることなんてできるのか。

しかし、フル電動ヤロウと接触事故を起こしたことによって、俺は瞬時に悟った。そうか、事故の被害者になれば、こちらのペースに持っていける!
まずはフル電動ヤロウが逃げないよう、腕をがっしり掴んでやった。
「これってフル電動自転車だよね? ナンバーついてないから自賠責にも入ってないよね? いまから警察呼ぶけどいい?」
「え? なんでですか?」

男はポカンとしている。自分が置かれた状況を理解していないのだろう。
「さっき俺の手にハンドルぶつけたよね? あんた人身事故を起こしたんだよ。違法な自転車で。わかってんの?」
続けて自賠責が未加入の場合、どういう処罰を受けるのか説明したところ、ヤツの顔がようやく青ざめた。
「すいません。通報するのは勘弁してください」
「俺に20万払うって約束するなら、止めてもいいけど?」
「さすがにそんな大金は…」
「どっちが得か考えてみなよ。俺が通報したら50万以下の罰金を払わなきゃいけないうえに免停になるんだよ。仮に罰金が半分の25万だとしても5万は得するんだぜ?」

実はこれ、ハッタリだ。法律上の罰金額は50万以下となっているが、過去に何度も免停歴がある場合を除き、実際に支払う額は10万以下である場合が大半らしいのだ。

まして、フル電動を取り締まる法律がきっちり整備されていない現状では、罰金を払えと命じられることさえない可能性もある。
が、そんな事情はフツーわかりっこない。男はこちらの言葉を真に受けた。
「わ、わかりました。いまからATMに行って20万、下ろしてきます」
よっしゃ!
冒頭でも書いたように、地元の繁華街ではこの手口が流行り始めている。
実際、俺も数人の知り合いからこんな話を何度か聞かされているわけで。
「この間、沢村さんのマネしたらたった15分で軽く30万ゲットしちゃいましたよ。あざーっす」
「俺は40万巻き上げました。相手は20代のガキだったんですけど、警察呼ぶぞって脅したら、泣いて謝ってましたよ。超ウケるんだけど」
いまのところ狙われているのは繁華街を縄張りにするフリーの客引きばかり。この手の連中はよくフル電動を乗り回しているのだが、もともと一般人をダマして暴利をむさぼってるようなヤツらなので、みな遠慮なくカネをむしり取っているようだ。
というわけで、フル電動に乗る場合はちゃんとナンバーをつけて、自賠責に入ること。それがトラブルを寄せ付けないコツだ。
しかし万が一、自分が違法なフル電動に乗って、当たり屋行為をされたら、取るべき行動はひとつ。
ソク通報だ。罰金は10万以下なのだから、ビビってそれ以上の大金を払う必要などない。