泥棒・詐欺師犯罪例から考える防犯対策

実際にあった泥棒や詐欺のリアルな手口を犯罪者側の目線で物語風にご紹介。犯罪から身を守る手法を身につける参考にお役立てください。

個人情報を流出させて稼ぐ悪い奴ら

どんな仕事に就いても長続きせず、転職を繰り返していたオレが、
見かけたクレジット会社の求人に応募、採用されたの
は2月のことだ。

待遇は決してよくなかったが、この不景気に賛沢は言ってられない。
しかし、入ってみて気づいた。

クレジット会社とは名ばかりでサラ金なのだ.
きっと銀行との付き合いとか関連企業の…でクレジット会社掲げていた方が都合がいいのだろうが、雰囲気や仕事の内容はサラ金そのもの。

頻繁に「お金を借りられませんか」とか「融資枠が開いてませんか」といった電話があるし、金を借りている客の台帳には、「他社8社から350万円借入」といった多重債務者の名も記載されている。

まぁいい。別にクレジット会社に入りたかったワケじゃない。

給料をくれるならサラ金だろうが何だろうがどこだっていいのだ。
オレがまずその会社で与えられた仕事は、キャッシングの受付業務だ。

金を借りたいという電話があると、客の名前や住所、勤務先など、基本となる顧客のプライベートなことを聞き、それを受付票に書き写すのだ。
また、そうした新規利用客の受付だけではなく、増額対象の客の対応も任せられた。

増額とは、例えば今まで万円が融資上限枠だった客が延滞なく5カ月間内で返済すると、融資額が上乗せになるというものだ。


仕事は実に簡単だった。新規客
の受付など、受付票どおりに客の
個人情報を聞き出した後、パソコ
ンで信用情報を取って担当者の上
司に渡すだけ。なんせ1日に何十
人といった客を対応しなければな
らないので、迅速な処理が第一


最初のころは時間に追われるだけ
の毎日だったが、そこは要領のい
いオレのこと、1カ月もすれば片
手間でこなせるようになった。
こうなると、後はいかに仕事を
しているふりをしながらサボるか
が課題となる。サラリーマンなど
マジメにやっていてもつまらない。
そこで目を付けたのが、個人の信用情報を取得する端末機だ。外
見は単なるパソコンだが、専用線
で信用情報センターと結ばれてお
り、個人の名前と生年月日、郵便
番号と住所の数字の上3ケタを入
力するだけで、その個人のデータ
が出力されるのだ。


驚くべきは、その情報量である。
借入額や返済状況はもちろん、勤
務先や勤続年数、自宅の住居形態
(持ち家かアパートかなど)、引っ
越していれば前の住所、転職して
いたら前の勤務先、さらには過去
にローンで買った商品が何で支払
状況はどうだったかということま
でわかってしまう。


こんな面白いモノを悪用しない
手はない。幸いにして、社員を信
用しているのかアホなのか、アク
セスに必要な会員番号も暗証番号
も紙に書いてセロテープでパソコ
ンのディスプレーに貼ってある。
操作に上司の許可も必要なし。つ
まり使い放題の環境なのだ。だが、さすがに勝手に使うのは
傭路した。1件あたり何百円の有料サービスだから、当然、会社も
誰の個人情報を取得したのかをチ
ェックしてるはず…と思いきや、
親しくなった先輩にさりげなく聞
いてみると、「そんなの確認してるわけないじゃん」とのこと。
何でも、新規で申し込んで来た
客でも、実際に融資するのは半数
程度。100件の個人情報を取得
したとしても、半分の別件は信用
情報に問題があり、融資を断って
いるらしい。よって、勝手に信用
情報を取得したところで、その中
に埋もれてわからないのだそうだ。
「でも、クレジットの個人情報は厳密に管理されてるって言われてるじゃないですか」


けなげに聞くオレに先輩は
「そもそも貸金業者の免許と事務
所さえあれば、信用情報の端末な
んて簡単に引けるんだよ。中には
信用情報を悪用してたり、あるい
は極端な話、個人の信用情報を取
得する目的で表向きの貸金業をや
る連中がいるぐらいだから」
仕事柄プライバシーに無頓着に
なっているのか、そんなことどう
でもいいと言いたげな表情だ。
しかし、やはりバレたときのこ
とを考えると恐い。せっかく入っ
た会社、クビにはなりたくない。
けど他人の信用情報は見てみたい。
オレは昔から気が小さいわりに、
好奇心だけは旺盛なのだ。
しばらく様子を伺っていたオレ
に、耳よりな情報が入ったのは、
それからまもなくのことだ。
クレジット会社が信用情報を取得、基本的に申込み者本人のものに限られるが、これを
ウチの会社は配偶者や親兄弟のデータまで取っていたのだ。
もちろん、最初は「金を貸すん
だから、家族のことも調べて当然」
としか思っていなかった。が、先
輩から「本当は違反なんだ」と耳
打ちされ、念のため信用情報の会
社に確認すると、「申込者本人以
外のデータは取らないように!」
とキッく釘を刺されるではないか。
会社が不正を働いてるなら少し
くらいは、と思うのが人情。信用
情報センターも、建て前はともか
く実際にクレームを言ってこない
ことからして、データの取得状況
などろくにチェックしていないに
違いない。ならば、あとは実践あ
るのみ!オレはまず、友人や親戚連中の
データを取りまくった。どうせバ
レないだろうし、会社に(したと
ころで「うちだって不正にデータ
を取得してるじゃないですか」と
開き直れば責任を追及されること
もあるまい。

当初はビビっていたオレもどんどん遠慮が薄れて
いき、わずか1カ月の間に友人や
親戚、顔見知りの信用情報データ
を100人分以上も取得してしま
った。マジメそうな友人が意外に
あちらこちらから金を借りていた
り、見栄張りな女が案の定そこい
らからカードでショッピングをし
ていたりと、個人個人の秘密が丸
分かりで、実に面白い。


こうなると、やることはどんどんエスカレートしていく。友人の
家族や恋人のデータまで取ったり、合コンで知り合った女のデータを取得したりと、やりたい放題。もちろん単にデータを取得するだけではなく、個人情報から気のある
女の自宅の番号がわかればすぐに電話。

勤務先に電話してデートに誘ったりもした。
こんな面白い話を人に話さずにいられるオレではない。大学時代の同級生と飲みに行った折り、
「実は個人情報なんて取り放題なんだぜ」とさりげなく話したら、
ソイッは興味津々で体を乗り出してきた。

そして「それって商売になるじゃん」と予想だにしなかつたことを口にしたのである。
「どういうことだよ?」
「電話番号から住所と名前を調べ
ます、って広告が新聞によく載っ
てるだる」
「知ってるよ」
「どうせ、NTTの内部とツルんでるんだろうけど、あいつら調べるだけで3万から5万取ってんだぜ」

友人が言うには、彼らは電話の
名義人を調べて商売をしているの
で、仮にその電話を使用している
のが若い女だったとしても、父親
娼義になっていれば、親の名前し
かわからないという。


ところが信用情報なら、相手がクレジットカードさえ持っていれば、一発で検索可能。女の生年月日、勤務先や借金の情報といった、よりプライベートな情報まで引き出せる。
「そういう情報、欲しがるヤシは
いっぱいいるだる・な、金になりそうじゃん」
言われてみれば、確かにそのと
おり。単に電話の甥義人を調べる
よりも需要はあるだろうし、稼ぎになりそうだc
「よつしや。なら、客はオレが集
める。おまえは注文があったら、
調べてくれるだけでいいから。料金は1件5万円でイケるだろ」
トントン拍子で話が決まってし
まった。分け前はオレが7割、友
人が3割だ。それから1週間もすると、友人
から電話が入った。夕刊紙に「個人
データ調査します」と三侭告を
出したら、すぐに傭があったと
いう。もちろん、オレはすぐにデー
タを引き出し、友人に手渡した。
宣伝や客の応対はソイッに任せ
ていたが、ここまで早めに動いて
いたとは。やはり、持つべきもの
は、使える友だ。
ともあれレの元には調査5万円の7割、3万5千円が転がんできた.

ただ会社の目を盗んでパソコンを叩くだけで、これだけの報酬。
オイシイ、オイシすぎる。
オレは友人にもっと広告を出す
ように急かし、ヤシも最初の報酬
で気をよくしたのか、それに応え
てどんどん広告を打ちまくった。
果たして、思惑は大当たり。依
頼の電話がひっきりなしにかかり、
最初の1カ月だけでオレの元には万円を超える金が舞い込んできたのだ。

世の中には、考えていた以上に他人の個人情報を欲しがる連中がいたのである(といっても、
その大半は男が女の電話番号や勤
務先を知りたいといったケースな
のだが)。
ちたみに、友人からもらう代金の
振込先は架空名義の銀行口座で、
連絡用の電話はプリペイドの携帯
電話だ。いつどこで、こちらの身元
が(しるともわからないため、こ
れぐらいの用心は当然だろう。
商売を始めて3カ月、月の収入
が100万円を超えた。もう笑い
が止まらない。しかも、依頼して
くる連中は金払いがいいので、料
金トラブルもない。
調査内容が不満なら金を返して
しまえばいいだけのこと。モメる
より、細かなトラブルを切り捨て
る方がよっぽど賢明。オレと友人
はそれが商売の秘訣と考えた。
ただ、一度だけヤバイことがあ
った。ある如代の男の信用情報を
取ったときのこと。いつもどおり
データをプリントアウトすると、
そこに「このデータは追跡中のも
のです。大至急、最寄りの***
までご連絡ください」という文章
が現れた。
何のことだかわからず放っておいたら、翌日、信用情報センター
から電話がかかってきた。運がい
いのかワルイのか、たまたまその
電話にオレが出てしまったのだ。
「先日、南村さんのデータを取得されましたよね。その件でお電話したんですが」
いきなり相手にそう言われ、真っ青になった。まさか、不正取得の(したのでは…。
「ただいま、そのときの担当者が
不在ですので、またこちらからお電話します」
とりあえずその場は切り抜けたが、さてどうしたものか。
さりげなく、親しい先輩社員に
「個人情報の追跡中って何?」と
尋ねたら、いかにもアホらしいと
いった顔で言う。
「それは他社で借りて夜逃げした
客を、信用情報で指名手配してい
るだけだよ。いいよ、適当に答えておけば」
この一件でオレは初めて知った。
つまり信用情報には、個人の現
況だけではなく、過去に借金を踏
み倒したり夜逃げしたという記録
まで残っているのだ。だから、も
し夜逃げした人がどこか同業他社に借金を申し込むと、信用情報の
データベースに引っかかり、一発
で今の居所がバレバレ(申込み時
に現住所を教えていた場合)。夜
逃げ先に債権者が押しかけることになるわけだ。


一瞬キモを冷やしたものの、この例を除いては特に大きなトラブ
ルもなく、順調に商売は続いている。
なんせ1日1件の注文で、1カ
月100万強の金が入ってくるん
だから、どうにもヤメられない。
実際、今じゃ会社からもらう給料
の4倍以上の金が毎月オレのロ座に振り込まれている。
まさにホクホク顔の毎日だが、
最近もう一つ、新しい商売を思い
ついた。実は会社のパソコンから
顧客名簿(ウチの会社から融資を
受けている人間の名簿)を抜き取
るのに成功し、これをどこかの街
金に高く売って一稼ぎしようかと
考えているのだ。
ついでに、ウチの会社で融資を
断った連中を紹介屋を通して危な
い金融にでも紹介し、利ざやを稼
ぐのもいいかもしれない。