泥棒・詐欺師犯罪例から考える防犯対策

実際にあった泥棒や詐欺のリアルな手口を犯罪者側の目線で物語風にご紹介。犯罪から身を守る手法を身につける参考にお役立てください。

犬や猫の里親を装い予防接種代金をパクる悪い主婦

主人の会社の社宅から広い3LDKのマンションに引っ越した。

社宅は家賃が安いが、周りが全部、会社関係。

何か監視されているようで気疲れするのだ。
その点、今のマンションには夜遊びして帰ってきても口うるさくウワサする奥さん連中もおらず勝手気まま。私は自由を手に入れたのである。
しかし、そんな暮らしも1カ月もすれば飽きてしまう。夫のため
に家事をこなすのは当然としても、絵画や陶芸などの趣味に興じる柄でもなり
かといって、パートに出るほどの働き者じゃないし、子供を作るのもまだ早い。いずれ私似の女の子を生む予定だが、もうしばらくは遊びたい。そこで室内犬でも飼
おうかと思いついた。

小型犬ならどんなものでもよか
ったが、たまたまテレビで見た顔
が長く耳が垂れ下がったヌイグル
ミのような犬がミニチュアダック
スフンドという種類だったので、それを飼うことにした。

 

多少は吠えたりするらしいが、成長しても
たいして大きくならないのがいい。
だが、ペットショップに出かけ
ビックリ。なんと、血統書付きの
ダックスフンドには15万円もの値段が付いていたのである。


おまけに犬を飼うには、狂犬病の予防接種をして保健所に登録し
なければならず、その費用として4,5千円。加え、生後3カ月を
過ぎたら2回(ないし3回)に分けて伝染病(ジステンパーやイン
フルエンザなどの混合ワクチン)の予防接種を行い、その都度1万
〜1万5千円が必要。

さらに避妊・去勢手術を施すのが常識で、
それに2〜4万もかかるというのだ。
残飯でもやればエサ代もそれほど要らないだろうと皮算用してい
たのに、20万もの大金、いったいどこを探せば出てくるんだ。
と、一度は憤慨して犬を飼うのをあきらめた私であったが、その
1週間後、ポストに入っていた無料のエリア情報誌を見て考えを改めた。


なんでも世の中には捨て犬や猫の里親を探すペットボランティアなる方々がいて、飼ってくれる人がいれば予防接種代などの費用を負担しているらしいのだ。
これってつまり、私が里親を希
望すればお金がもらえ、もし仮り
にその犬が散歩の途中、どこかの
犬に吠えられでもして、いなくな
ってしまっても、その費用は丸々私の手元に残るってこと?

ウマクすれば、1匹の犬で4,5万円が手に入るのだから、こんな楽チンなバイトは他にない。ただ問題は、本当に費用を負担してくれるかどうかだ。とりあえずメッセージを出していたボランティアに電話で問い合わせてみることにした。「お電話ありがとうございます。
こちら「里親ネットワーク」です」
コール3回で出たのは30代と思
しき女性で、親切にいろいろ教えてくれた。


会のおもな活動は捨て犬や猫を保護して飼い主を見つけること。
それ以外にも、野良犬・猫を増や
さないために不妊・去勢手術を積
極的に行うようキャンペーンなどを展開しているらしい。


彼女は専業主婦で、別に会から
日当をもらっているわけではなく、
ヒマなときに手弁当で事務所の電話番をしているのだと

「こういうボランティアって全国
にたくさんあるんだけど、どこも
運営が大変なのよ。活動資金は賛
同者のカンパとボランティアの持
ち出しだから、結構、お金もかかるしね」


犬が好きなのでボランティアに
参加したいという私のことばを信
じ、自分と同じ境遇と思ったのか
すっかりうち解けた口調になって
きた。
「でも情報誌には手術やワクチン
の費用が払えない人に援助をして
るって書いてあったじゃないです
か。あれ、本当なんですか」


肝心なことに切り込むと、相手
は困ったような口調になった。
「いちばんの問題はそれなのよ」
ペットブームだなんだと騒がれ
ているが、人気があるのは血統書付きだけ。ブリーダーからそうい
う犬や猫を買って飼い始めるのは
いいが、飽きると簡単に捨ててし
まう人が多く、結果、街に雑種の
野良が増えるというわけだ。


「ポメラニアンだパグだっていう
と引き取り手はあるんだけど、雑
種はね。飼うからには責任を持っ
てほしいから不妊・去勢手術をし
てくれってお願いするんだけど、
家計が苦しいって言われればいく
らでも用立てるしかないのよ」


社会のため、ペットのために運動をしている人たちには申し訳な
いが、やっぱり私の読みはあたつていた・里親になりたいがお金が
ないと言えば費用を援助してくれるのだ。


さっそく「私も里親になりますよ」と申し出ると、相手は「ぴっ
たりの.がいるよ。生後5カ月で、
ワクチンも手術も終わってるから
世話ないわよ」って、それじゃ意味がない。


とりあえず「じゃ、また連絡します」と電話を切って、作戦を立
て直すことにした。

ペット雑誌を購入し、インター
ネットで関連のサイトを見て回る。
すると、あるわあるわ。全国各地で「不幸な犬猫をなくす会だのペット里親の会」なんてボランティア団体が活動をしていた。


そこで私は気がついた。捨て犬
や猫の面倒を見るボランティアが
私財を投げ売って里親になってく
れる人を探しているなら、まして
や自分ちの可愛がってるペットが
産んだ子供たちにはお金を出すの
を厭わないのではないかと。


そこで私は、近所の動物病院に連絡し、生まれたばかりの犬を飼
いたいので里親を探している人が
いたら電話をくださいと頼んだ。
前を通ると、よく「仔犬もらって
ください」などという手書きのポ
スターが貼ってあるのを思い出したのだ。


待つこと2週間。動物病院から念願の電話が入った。お客の雑種
に4匹子供が産まれたので、引き取り手を捜しているという。
とりあえず車ですぐにその家に向かう。

と、先方は緑豊かな郊外の一戸建てで、生まれたばかりの
仔犬たちが庭先の犬小屋で母犬のおっぱいを吸っていた。
玄関のチャイムを鳴らし、動物
病院の紹介で訪ねてきたというと、
帥は過ぎてるだろう老夫婦が現れ
た。わざわざすみませんねと頭を
下げながら、本当は全部自分たち
で飼いたいけど、この歳で5匹の
面倒はたいへんでと人の良さそうな顔を見合わせる。
「私も犬が大好きなのでゼヒ飼いたいのですが、社宅から引っ越し
たばかりで家計が苦しいんですよ。
よかったら予防接種代と避妊手術代を負担していただくわけにはいかないでしょうか」

仔犬の頭をなでながら、目いっぱい殊勝な声でお願いする私。こ
んな厚かましい条件にウンと言うなど考えられなかったが、その夫
婦は「いいですよ」と、1匹につき4万5千円を出してくれた。
やってみれば、拍子抜けするほ
ど簡単だった。2匹を引き取ると
いう私に、その夫婦は近くの郵便
局でお金を引き出して9万円を差し出したのだ。
これって、なんか法律に違反す
るのかな。もしかして詐欺?で
もでも、私が計画的に編してるな
んて証明するのは不可能だもんね。
ただ、罪悪感ってほどのものじゃ
ないが、いつまでも手を振ってた
あの老夫婦の姿を思い出すと、ち
ょっとだけ心が痛む。

な-んて思ったのはその日だけ
だ。最初の成功に気をよくした私
は、この犬猫の里親バイトを本格
的に開始。電話帳を引っぱり出し、
広告を載つけてる動物病院やペッ
トショップに、犬がほしいので里
親を探している人がいたら連絡し
てほしいと頼み込んだ。


もちろん、インターネットでホ
ームページを開設している団体に
も同様のお願いメールを送る。
すると翌日から1日に何件か、
連絡が入るようになった。が、そ
うそうウマクはいかない。
わざわざ相手の家に行っても、
すでに予防接種が済んでいたり、
援助を申し出ると「お金を払って
までは」と断られたりでムダ足の連続。
その結果、より多くのお金を引
っ張るためには、次の3点を事前
に電話して確認しておくべきだと悟った。


①予防接種をしていない生後3ヵ月以内の仔犬かどうか
日本の法律では、生後90日以上経った犬を飼うには狂犬病の予防注射を義務付け、保健所に登録しなくてはならないと決まっている。よって、3カ月以上経った犬は接種済みの場合が多く、代金援助をお願いすることができない。


②メスかどうか
オスの去勢手術は高くても2万なのに対し、メスの不妊手術は約4万。どうせならメスをもらって2万の上乗せを狙いたいところ。


③猫は金にならない
犬は保健所に登録する義務があるのに対し、猫の予防接種は一般的ではない。よって、取れても避妊・去勢手術代の1,2万がせいぜい。猫の方が里親を探している人数は多いので、犬がいないときはやるしかないが、やっぱりオイシイのはメス犬なのだ。里親を探しているという連絡入ると、まず先方に問い合わせてみる。生まれた月日と性別を確認し、さらに肝心なのは相手にどうしても仔犬を手放さなくてはならない理由があるのか、ほしい人がいればやるという軽い気持ちなのかを探ることだ。


引っ越しをしなくてはいけない
とか、子供が生まれるので犬が飼
えないなど切羽詰まった理由があ
る場合、予防接種と手術代を全額
負担してほしいと強気に迫っても
案外出してくれるもの。
が、自分で飼えないこともない
けどほしい人がいるならあげても
いい、なんて悠長に構えてる人は、
たいがいが「お金を出してまでも
らってほしいと思わない」と突っぱねてくる。


交渉の余地がなければ「こっちも
苦しいので今回は…」と受話器を
置けばいいだけのことなのだが、
中には「接種代だけでも」と下手
に出れば出してくれることもある
ので、最初にどういう相手か見極
めることが肝心なのだ。


また、男の方がサイフのヒモが
固いので、ダンナさんが働きに出
ている昼間に連絡を付け、速攻でもらいに行ってしまうのもコツ。
「主人に相談しないと…」と保留
にした家から、お金が出たことは
一度もない。
事前にお金の話をして額を決め
ておけば、実際に犬を引き取りに
行ったときに多めにくれることは
あっても、「やっぱり出せない」
とは言わない。そういう薄情な人
は最初からわざわざ面倒な手続き
取って里親を探そうなんてせず、
その辺に捨てちゃうんだろう。
では、もらった犬はどうするの
か。実はこれ、その日のうちに捨
ててしまう。ま、私も鬼じゃなし、
野犬狩りに遭っても可愛そうなの
で、一応は里親ボランティアをや
ってる家の近所で車から放り出す
ことにしている。
最初は犬を引き取ったその足で
捨てに行ってたのだが、あるとき
元の飼い主から「元気にしてます
か」と、電話が入った。
とっさにはどの犬のことなのか
わからずパーくりながらも適当に
「いま主人が散歩に連れていって
るんですよ。本当に元気がよくて」
とゴマかしてコトなきを得たが、
同じようなことがあってはいずれポロが出かねない。そこで、犬を
いったん家に連れて帰り、写真を
撮っておくことにしたのだ。そし
て問い合わせがあった場合は、そ
の写真と「毎日、走り回ってます」
なんて書いて送ってやった。
いままで2回以上言ってきた人
はいないし、もし仮にいたら「散
歩の途中、野良犬に吠えかけられ
て逃げてしまった」とか、「瑞息
が出るようになったので知人に預
けた」など、言い訳の仕方はいく
らでもあるのだから。こんなことでウマクいくか不思
議に思うだろう。いったい、何万
かの金を出して犬をもらってほし
いという人がどれほどいるかと。
私も初めは、ウマクいくかもし
れないがそんなには続かないだろ
うと思った。ところが、やっても
やっても成功しちゃうのだから世
の中、甘いと言うしかない。
コツは雑種を狙うことだ。血統
書付きならいくらでももらい手が
いるが、雑種はなかなかいない。
加え、雑種でも小さい室内犬なら引き取り手はあるので、田舎の方の大型雑種を狙う。

都合がいいことに、雑種はボコ
ボコ子供が生まれる。何頭もの仔
犬を前に当惑する飼い主の足元を
見て、1頭でも2頭でもワクチン
代を負担していただけるなら引き
取れるんですが、と交渉するのだ。
1頭につきワクチン代の1万だけ
もらうとしても、数がいれば2万
3万引っ張れる。
向こうは自分が動物好きなので、
犬猫を好きなヤシに悪人はいない
と思うのか、簡単に人を信用して
しまう。例えば、ペットショップ
で9万のプードルを買ったはいい
が、鱗やなんやかんやでノイロー
ゼになって手放したいとい語且右い
主婦の場合。
普通に考えればペットショップ
に売れば、何万かは戻るじゃない
かと思う。が、情が移った犬を売
るのは忍びないと、3万5千円を
出して私に譲ってくれたのだ。
当然、私がその足でペットショ
ップに売りに行ったのは言うまで
もない。血統書が付いていたので
6万5千円で買い取ってくれた。
ほんの1時間で万円が懐に転がり込んできたのだから、笑いが止まらないとはまさにこのこと。
もちろんその主婦には、写真を撮
って「元気にやってます」と手紙
を出しておいた。
里親バイトを始めて3ヵ月、こ
こいらで飼い主と大ゲンカしたな
んてエピソードのひとつもほしい
ところだが、話すべき事はない。
最初の問い合わせでお金を出さな
いと言った人は相手にしないので、
トラブルになりようがないのだ。
元来なまけものの性格ゆえ、1
日に何件も掛け持ちなどしないが、
1日置きに出かけ扱うのは月に卵
匹ほど。自分で1匹につき1万5
千円以上取ると決めているので、
平均すると約2万5千円ほど。月
に125万の稼ぎにはなっている
計算だ。
しかし、そろそろ辞め時かと思
っている。誰かに(したとか、も
う犬や猫がいなくなったというわ
けではない。実はこんな面倒なこ
とをするより、ブリーダーになっ
た方が儲かるんじゃないかと画策しているからだ。
きっかけは、頼んでいた動物病
院からのツテで連絡してきた師才
のバッイチ女性からもらったシー
ズー犬だ。
いつものように電話で問い合わ
せると、引っ越すことにしたが今
度のマンションはペット禁止。そ
のため飼ってる犬を引き取ってほ
しいのだと言う。
こりや、お金を取れるパターン
だと「避妊代と予防接種で5,6
万かかるので、できるだけ面倒見
てほしいんですよ」と強気に出る
と、4万出すとの返事。
で、さっそく訪ねると、その女
性はメチャクチャいいマンション
に幼稚園ぐらいの子供と住んでい
た。聞けば、ダンナと離婚し、フ
ァッションヘルスに勤めながら子
供を育てているのだとか。
しかも、単に仔犬と言ってたの
は人気のシーズーで、ペットショ
ップに持ってけば軽く10万しそう
な犬。おまけに「エサ代もかかる
から」と8万もくれたのである。
里親を辞めてブリーダーになろうと思ったのは、別にその女性の
気持ちにほだされてなんて美談ではなく、「血統書は手元にないけど由緒正しい犬だ」という彼女のことばを信じたからだ。
血統書がないなら作ればいい。
それで生まれた犬が10万、20万に
なるなら、やらない手はない。と
りあえず偽造してくれるブローカ
ーを探そうつと。