先月号のルポ「ザ・不法侵入」には大笑いしてしまった。
病院、商社、小学校、テレビ局など、大半の場所が部外者の侵入に対しノーチエック。
わかるわかる。あいつらホントにヌケてんだよなあ。
と、なんで一介のリーマンであるこのオレがそんなことを知ってるのか。理由は一つ。
小遣いが欲しくなるたび、オレ自身が「ザ・不法侵入」をやらかしているからだ。
キッカケは８年前の夏。地元デパートのスポーツショップへ、クレームをつけに行ったときのことだ。
「あのさ’、コレまだ直ってないんだよ。つーか、オタクらいったいどういうつもりな
んだ？不良品を売りつけやがってよ」
先日購入したスキューバ用の酸素マスク。自宅に持ち帰った直後に不具合を発見し、すぐ修理へ出したところ、これがまったく改善されていないのだ。
「すいませ’ん。んじゃもう１回修理に」
「ふざけんな。いいよ、もう。金返せよ」
「いやそれはちょっと。店長がいないとムリつすね」
「じゃ店長呼べよ」
「は？いまいねんすよ」
フ、フザケやがって。なんなんだこの対応は！
怒り心頭、オレは店を出て、まっすぐ職員の通用口を目指した。店長に文句を言うだけではもはや収まらない。デパートの支配人に直接抗議してやるぞ。
裏手の階段付近で目的の扉を見つけ、中へ。『関係者以外立ち入り禁止』の札が掲げて
あるが、そんなもん知ったこっちゃない。
殺風景な廊下をドンドン進む。途中、スーツ姿の社員と何度もすれ違う。誰も声をかけてはこない。出入り業者とでも勘違いしているんだろう。
にしても、支配人どこにいるんだ？休憩室、社員食堂、倉庫。それらしき部屋が見つからんぞ。
建物内をウロつき始めて５分。ふと、視界に「女子更衣室』というプレートが飛び込
んだ。カギがかかっていないのだろう、ドアがわずかに開いている。
更衣室か…。思わず周囲を見渡し、そっとドアノブに手をかける。ギイィ。
ソ〜つと足を踏み入れると、室内には縦長のロッカーがびっしりと並んでいた。部屋の
両端と真ん中に、８つずつ。
試しに片っ端からガチャガチャやってみると、半分はカギがかかっておらず、簡単に
扉が開いた。スゲー。
思わずバッグや財布を取り出し、カネだけをポケットにねじ込む。しめて６万８千円なり。いやｌ愉快愉快。こりやもう、ドンドンやるしかないね。
すっかり調子に乗ったオレは、時間を見つけては同じ更衣室はもちろん、別のデパー
トや近県の店にも出張するようになった。
作戦など何もない。フッーに社員通用口から立ち入り禁止エリアへ入り、フッーに更
衣室に侵入、フッーに開いているロッカーからカネを盗るだけ。とりあえずスーツを着用してさえいれば、部外者扱いされることもない。
にしても、デパート社員の危機意識の無さは相当なものだ。ロッカーのカギが開きっ
ぱなしなのはまだマシで、中には更衣室の机の上に無造作に財布を放ったらかしにして
いる輩までいる。これでは、まるで盗んでくださいと言わんばかりではないか。もちろ
ん盗むけどさ。
そして、悪事を繰り返すうち、当然のように、オレはある予想に辿り着く。
従業員や職員がワラワラいる職場や、人が大勢出入りする場所なら、どこもセキュリ
ティはユルユルなのでは
読みは間違ってなかった。
さすがに守衛のいる大企業の入り口では門前払いを食らったものの、中規模の工場、大
型スーパー、高校、大学の更衣室にはラクショーで潜入できる。変わったところでは地元市役所もうまくいった。ナメたことに、ここの職員用ロッカー室は、一般人が使う便所のスグ隣にあり、入り口のカギも開きっぱなし。二度ばかり荒らし、いただいてやった。
ここまで読むと、さも頻繁に盗みを働いているようにも
思えるオレ様だが、実際は８年間で20件程度と控え目だ。
これでも昼間はれっきとした会社員である。よほどカネに困ったとき以外は働かない。が、一度だけ例外があった。
２年前の秋、国道を車で走っていたときのことだ。不意に尿意を催し、すぐ脇の大型ゲ
ームセンター前に緊急停車。
股間を押さえつつ、店内でトイレを探した。
どこだどこだ？ここかＰそれっぽいドアを開けると、無人の事務室だった。おい、便所ちやうんかい
きびすを返そうとしたそのとき、部屋の片隅に金庫が目に入った。
事務所は１階。金庫のすぐ側には窓があり、外は駐車場になっている。オマケに従業
員は遥か向こうに３人、ボーつと突っ立っているだけ。
やりますか。
火事場のバカカとはよく言ったもんだ。普段なら絶対に持てない、優に80キロはある金
庫を、オレはググッと持ち上げ窓から放り投げた。
後はソレを手で転がし、愛車のトランクまで運搬。家に戻って鍵穴をバールでこじ開けると、中から70万の現金が出てきた。
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こんなオレが言うのは本当におこがましいのだが、みなさん、もうちょっと危機管理
の意識を高めてもいいんじやないかね。
