泥棒・詐欺師犯罪例から考える防犯対策

実際にあった泥棒や詐欺のリアルな手口を犯罪者側の目線で物語風にご紹介。犯罪から身を守る手法を身につける参考にお役立てください。

普通のOLがオレオレ詐欺特殊詐欺に手を出してしまった理由と葛藤

孫を装い電話をかけて、老人から金をダマしとるオレオレ詐欺

今年に入ってから猛烈なイキオイで全国に広まり、6月にはついに女版のわたし、わた
し詐欺まで現れた。
新聞によれば、手口はいたって単純。子供がデキたから、手術代を振り込んでくれというものだったらしい。
事件を知り、私は少なからずショックを受けると同時に、胸を撫でおろしていた。

何を隠そうこの私、一連の詐欺が騒ぎになる4年も前から「わたし、わたし詐欺」を働き続け、昨年末に足を洗ったばっかりなのだ。
中堅商社に勤める平凡なOLに、なぜそんな大それた真似ができたのか・誰にも言えなかった3年半を告白しよう。

短大卒業後、社員数200人の紡績商社に勤めたのは8年前のこと。
入社2年目に経理部に配属され、平凡ながらも幸せなOL生活を満喫していた。
しかし、春、ささやかな暮らしは突如崩れ去る。結婚を信じて付き合っていた彼にフラれ、ショックのあまり買い物依存症に陥ったのだ。
最初は化粧品だったのがブランド品の洋服、アクセサリー、バッグと高価な品を買い漁り、1年後、毎月のカード返済額が15万を超えるまでになった。
いっそのこと風俗で働くか。絶望的な思いで1年半を送り、迎えた秋。出社前にワイドショーを眺めていたら、テレビ画面にド派手なテロップが表示された。
「元シブがき隊フシくんの祖母、100万円奪われる!」
事件のあらましはこうだ。某日、フシくんのおバアちゃんの元に孫と名乗る男から電話が入った。
「交通事故を起こして、すぐに100万円が必要なんだ。おばあちゃん用意してくれないか!今、友達に取りに行かせるから』
受話器越しにまくしたてる男に、おばあちゃんは本物の孫と勘違い、間もなくやってきた友達に100万を渡してしまったという。
私は、ただただ唖然と番組を眺めていた。実の孫と詐欺師の声を聞き間違えた?見知らぬ人間に100万円を預けた?
とても信じられない話である。
突然、頭に高校時代、悪友とハマったイタズラが浮かんだ。クラスで1,2の可愛い子の名を編り、ムカつく男子に電話で「好き」と告白、駅前に呼びだしてはマクドから眺めて笑い転げる。バレたことは一度もなかった。
ということは、たとえ孫でも声を聞き間違えることは十分ありうるのか。
例えば、電話帳から「トメ」や「フク」などの老女らしき名前を探し、孫を装い電話をかける。
おばあちゃん、大変な事が起き
てしまったの・

今すぐお金が必要なの体の奥底で何かが撞き始めていた。

翌日・会社の昼休みに、駅近くの公衆ボックスに向かった。お年寄りに電話して、「私、私」と言ったら本当に孫と勘違いするか。
それだけ確認してみようと思った。

電話帳をパラパラめくり、最初に目に付いたのが○×区在住の高橋フジさん(仮名)宅。

一呼吸おいた後、私はおもむろにボタンをプッシュした。
3回呼び出し音が鳴り、
「もしもし、高橋ですけど」
「……えっと、私私」
「は?どちらにおかけですか?」
「ま、間違えました」
ダメだ・とてもじゃないが、緊張して先が続かない。でも、もう一度だけ。
次は、同じく○×区の飯田ヨネ(仮名)さん宅。
「おばあちゃん録私、私」
「あら〜、みつこかい?」
「えつ」
「どないしてんな?」
「あ、あ、あのね今、私大変な事になってんねん」
「なんやねんなぁ」
「あ、あの、相談できるのおばあちゃんしかいなくて…」
「だから、どないしてん?」
「ヤクザの人に脅されてて、今日中に10万円用意せんと、殺されてまうやんか!」
足をガクガクさせながら、泣き声を振り絞った。
「そんな大変なこと、すぐに警察に連絡せなアカンで!」
「いや、でも…」
「そんな弱気じゃアカンで!気をしっかりもって警察に相談 しなさい。おばあちゃんも付いて いってあげるからー」

「いや、その…自分で行くし、また後で連絡するわ」

「ほんまに大丈夫か?」

「う、うん。また後でな」

受話器を置き思わず地べたに座り込んだ

膝の震えが止まらない

架空口座とばしの携帯

どうやらコレ、他人名義で契約された携帯で、通話不通となるまでしゃべり放題らしい。
まさに、両方とも私の計画のために作られたようなもの・さっそく、フリーメールを使い問い合わせのメールを送ってみた。返事は翌日届いた。通帳&カードが2万、ケータイが3万・振込みを確認次第、商品を発送すると書かれている。
信じていいのだろうか。お金、を振り込んだらそれっきりだとしても文句は言えない…。
2日悩み、私は指定の口座に7万円を振り込んだ

個人名義、会社名義の通帳を各1冊ずつとトバシの携帯。送付先は隣のマンションの空室の住所を記入した。
仕事帰りに毎晩郵便物をチエックすること1週間、ポストに大きな茶封筒が放り込まれた。すぐに、用意していたトートバックの中へしまい込んだ。背中に冷や汗が流れた。

番号を押す指が動かない
準備は整った。もはや実行あるのみ。迷いはなかった。他に、借金を返す手段などないのだ。やるしかない。
電話は会社のお昼休みに、近所のカラオケボックスからかけることにした。
銀行が開いているのは平日の午前9時から午後3時。その間、OLの私が自由になるのは昼の1時間しかない。カラオケの個室に入れば、集中して話すことができるはずだ。
改めて覚悟を決め、目当ての
カラオケボックスに入った。ランチを注文し、半分食べたところで、バッグから携帯を取り出す。かけるべき先は、すでにメモ帳にラ
インナップされている。
…できなかった・

これから自分がやろうとしている事の重大さに、どうしても指が動かない。
そして、私は翌日もその翌日もカラオケボックスに顔を出しては、ただただランチを頬張り、意味もなく会社に戻ることを繰り返した。
しかし、借金は待ってくれない。
返済額はついに20万を突破。その支払日は3日後に迫っている。この期に及んで何をイイ子ぶっているのだ・やるしかないだろ。気合いを入れろ
翌日、新たな決意を胸に、私は再びカラオケボックスに足を運んだ。いつものフロントで偽名を記し、3畳ほどの個室へ。その日はウーロン茶だけを注文した。
携帯を取り出し、ノートの最初に書かれたトミ(仮名)の番号をプッシュする。大丈夫、指は震えていない。
シ、シ、シ、シという電波音の後、呼び出し音が鳴る。ゴクリと唾を飲み込む。出て。早く出て。
緊張と焦燥がないまぜになりながら祈る・が、結局、トミさんは電話に出なかった。
大きく深呼吸を一つ・2人目のターゲットはフデさん(仮名)・いこう。
しかし、彼女も不在。3人目も留守で、迎えた4件目が、フミさん(仮名)だった。
やってしまった。ついにやってしまった
「もしもし」
「はい」
出た!
「も、もしもしおばあちゃん、私、私!大変な事になってんやんか」
「あらまあ、ひろちゃんかい!どないしてんな?」

「会社のお金使い込んじゃって、今日中に穴埋めせんとあかんねん!私、捕まっちゃうよ!おばあちゃん、助けて!」
「何てこと…」
失敗したら地獄から抜け出せない。そんな切迫感からか、自分でも驚くほど大きな声が出た。
いいぞ。
「こんなこと誰にも言えずに今まで黙っててんだけど…」
「いくら要るんや?」
「おばあちゃん、今すぐいくら用意できる?」
「20万ぐらいなら家にあるよ。で、どうしたらええの?」
「会社の通帳に今すぐ振り込んでくれる?」
「わかった、すぐに銀行に行くさかい、振り込み先を教えとくれ」
「ありがとう!銀行は××で普通口座の0000…」
最後まではっきりした口調で言い切り、電話を切った。やってしまった。ついに私はやってしまった。
トイレで化粧を治そうとしたら、顔が真っ青だった。このまま会社をサボろうか。いや、ダメだ。あくまで自然に振る舞うべきだ。社に戻り、電卓を叩いた。自然、頭の中が力-つと熱くなってくる。