泥棒・詐欺師犯罪例から考える防犯対策

実際にあった泥棒や詐欺のリアルな手口を犯罪者側の目線で物語風にご紹介。犯罪から身を守る手法を身につける参考にお役立てください。

ホストクラブの売り掛けツケから逃げる女性客の手口

売り掛け俗にツケと呼ばれる支払い方法は、商売を営む側にとって、まんざらマイナス面ばかりではない。

どころかとりあえずの手持ちがない客をもキャッチできるという意味では、むしろブラスに作用すると言ってもいいだろう

実は、ホストという職業ほど、この売り掛けを駆使する人はいない

新規客をハメるために、なついた女から大金を引っ張る道具として等々。ツケは大きな武器として力を発揮する。

しかし、一方でリスクも小さくない。

売り掛けをした客が万が逃げた場合は、担当ホストがそのケツを拭くのが業界のルール。つまり全額負担だ。

当然、ホストはそんな事態にならぬよう、取り立てに必死なのだが、それでも未回収金は出る。

例えば、新宿・歌舞伎町のホストクラブの場合だと、どこの店でも、月に30人以上の客に逃げられ、平均300万円ほどが回収不能になっているという。

ここで紹介するのは、歌舞伎町で起こった前代未聞の飲み逃げ

300万を使わせたところで、女に飛ばれたホスト、ョウジ(仮名、23才)の体験談である。なぜ、そこまでの大金を客に使わせたのか。この不測の事態に、彼はどう対処したのか。事の発端から終演までの一部始終を本人に語ってもらおう

エミと出会ったのは、去年の1月だよ。夜11時頃、キャッチしてさあ。
雰囲気は、いかにもなギャル。
目の回りを真っ黒に縁取って、髪は内巻きのセミロング。やたらキャピってて、自分のこと「えみチンわあ」とか舌っ足らずな喋り方すんだよな。正直、バカじゃねてのが第一印象。
でも、ちょっと話してたら、いろんなホストクラブで遊んでる浪費家っぽくて、金の臭いがブンプンすんのよ

写メをひけらかして、言うんだよ。
「この前、ピンドンでシャンパンタワーもやったしい」
ゲッ何この女、とか見る目が変わったね。
シャンパンタワーってのは、グラスでピラミッドを作って、上から酒をプチまける、余興みたいなもんね。

使うシャンパンにもよるけど、最低でも50万・本当にピンドン(ドンペリのピンク)だと300万は超すよ。
もう何がなんでも自分の客にしたいと思っちゃったんだよね。
でも、結局その日は、店に連れて行けなくてさ。マックおごって、携帯の交換して終了。
次の日からメールと電話で宮業かけまくったんだけど、そうしてると、少しずつ何してるヤッかがわかってきた。

たぶん、デリヘル嬢。いや、まず間違いないと思ったね。
例えば、夜中の1時にメールすんじゃん。レスは《町田に移動中(汗)》とか。その後4時に《川崎に向かってる》とか。フッー、ありえなくね?
あと、エミの雰囲気が、俺の客のデリヘル嬢に似てたんだよね。シャンパンタワーが好きなとこなんかも。
その客のデリヘル嬢が八ンパなく稼いでんだよね。前に通帳を見せてもらったら、預金が3千万だぜ。だから、エミもそうかもって勝手に盛り上がってさあ。
それとなく探りを入れたら案の定だったよ。ウソかホントか、2千万持ってるって。ちよビビった。気合い入ったね。
その後、個人的に会って、飲みに行ったりセックスもしたんだけど、来店話は毎回のびのび。しつこく営業メール送りすぎたせいか、だんだん返信も悪くなってさ◎そのうちオレも連絡を取らなくなったんだよね。

9カ月くらい間が空いて、次に会ったのは、去年の夜の1時頃。キャッチ中に偶然見かけて、「あつ」みたいな。
エミの方も嬉しかったぼくて、アイッの方から切り出してきたよ。
「じゃあ、ちょっとだけ、店行ってあげてもいいかもお」
知ってると思うけど、ホストクラブってのは、基本、水商売やってる女のための店だから、
開店は普通、真夜中。オレのとこは2時オープンなのね。なんで、居酒屋で時間潰しして、3時前に店に入った。
ひとまずハウスボトルで乾杯して、頃合いを見てシャンパンを勧めたよ。2千万持ってんだから、そこは、やっぱガンガン使ってもらわないとさ。
でも、エミは言うんだよね。
銀行にはたくさんあるんだけど、今日はあいにく持ち合わせが少ない。だから、酒を入れるのは次回にしとくって。一切聞き入れなかったね。そんな断りいちいち聞いてたら、ホストやつてけないじゃん。当然、おしまくったよ。再会を祝いたいだの、他の席の客に金のあるとこ見せてやってだの。で、足りない分は売り掛けにして、店を出た後、一緒に下ろしに行こうって

なんとか納得させて、6万円のドンペリの白入れさせたよ。

もちろんシャンパンコール付きね。
シャンパンコールってのは、高い酒を入れてくれた客に対して、店のホストたちが全員で声を上げてお礼すんのね。つっても本当のとこは、金持ちの自尊心をくすぐって、もっと酒を入れてもらおうって魂胆のデモンストレーションなんだけど。
えみちゃん、ありがと!ありがと、えみちゃんしてやったりで、エミにスイッチが入ったよ。2本目から、すげ勢いで酒を入れ出したんだ。
ホストクラブの酒って、基本的に客が飲むもんじゃなくて、女は二口三口程度で、担当ホストやコールの連中にガンガン飲ませるもんだからさあ。エミのボックス席は、もうドンチャン騒ぎだよ。
ツブれるヤシ。裸になって踊り出すヤシ。オレも途中から記憶が無くなったんだけど、朝6時ごろロマネコンティの330万が入ったことはしっかり覚えてる。
さすがにエミも酔っぱらったらしくて、スゲーこと言ってたよ。
「この店の酒、全部持って来い」

身元もよくわからぬ小娘に、なぜここまでノンストップで飲ませたのか。仮に、ヨウ
シがエミの支払い能力を完全に信じ込んでいたとしても、店側までもが、どうして易々と女の注文を許していったのか。
ヨウシは言う。
「ホストクラブで遊ぶ客の中には、まれに彼女のような浪費娘はいたから、特に不自然に感じなかったんだよね」
いずれにせよ、エミが好き放題をやり尽くしていた午前7時、ヨウシは記憶を失い、気付けば夜の8時だった。

携帯の呼び出し音で目を覚ましたら、どうやって帰ったのかはわからなかったけど、家のベットの上でさあ。電話取ったら、オーナーだったよ。
「やっと出たよ。おいヨウシ、あの女、何もんだよ?」
寝起きで、まだボーつとしてるとこに言われても、何のことかわかんね’じゃん。そしたらオーナーが怒鳴るんだよ。
「まだ知られの?あのエミって女、逃げたんだよ。おまえ、売り掛け1千300万持たされて、飛ばれたんだぞ!」
一瞬で目が覚めたね。そんなバカな、だよ◎逃げたとか飛ばれたとか、何だよそれって動揺しまくったよ。
オーナーの話だと、エミのオンステージは朝の9時過ぎまで続いて、ホストたちは全員ブッ倒れてたらしい。で、支払いは1千300万オーバー。
けど、ヤシは全然ビビらずに、オレと銀行行くってきかない。
でも、オレもぶつ倒れてるもん
だから、それじゃあ会計係のキャッシャー2人が同行することになった。ところが、店を出る寸前にヤシが言い出したんだと。

「あ、最悪う。キャッシュカード忘れたっぽいしぃ。ヤバいですよね?家まで取りに行っていいですかあ?」
明らかに怪しいけど、言うこときくしかないよね。で、店のスタッフがエミをタクシーに乗せて、彼女の自宅まで連れてったんだ。
着いたのは立川の大きなお屋敷。カードを取りに行かせる前に、ヤシの携番確認して、あと身元のわかるものも押さえたかったけど、免許証や保険証は持ってなかったらしくて、とりあえず、美容院や服屋のポイントカードを残させた。
車から降ろしたとき、エミは言ったって。
「親にバレたらマジでヤバイんで、ゼッタイ電話とかピンポンはしないで下さい。10分で絶対戻るから」
でも、屋敷の門をくぐって30分たってもエミは戻らなかった。
電話をかけても通じない。で、仕方なく呼び鈴を押したら「娘なんかいません」って返ってきた。慌てて、家の裏に回ったけど、もう見当たらなかったって。
驚かされるのは、渡されていた、力ードの名前が「山下エミ」で、屋敷の表札も「山下』が同じだったってこと。『山下エミ」が本名かはわからないけど、その家の名字と一緒だってことを知ってたつてことは、確信犯だよ。地獄に突き落とされた気分だったね。
オーナーは最後に俺に何度も言ったよ。
「ゼッタイ見つけてやるから落ち着け。間違っても変な気は起こすなよ」
要は、オマエは飛ぶなよ、てことだよれ。
ホストクラブってのは、結局、ホストも客なんだよ。売り掛けのリスクをも押してでも、必死に働いて利益を上げてくれるホストは、ある意味、女以上の客なのかもしんない。だから、オレという保証を持っている店が、本気でエミを探そうとするとは思えなかった。