泥棒・詐欺師犯罪例から考える防犯対策

実際にあった泥棒や詐欺のリアルな手口を犯罪者側の目線で物語風にご紹介。犯罪から身を守る手法を身につける参考にお役立てください。

国債、株券、商品券からビール券、ゴミ処理券まで偽造の手口

偽造とは、ニセモノを作る作業ではなく、ホンモノと見分けのつかないものを作る行為だ。
ニセモノとわからなければ、それはホンモノとして見なされ扱われるわけで、世の中にはこうして作られた「ホンモ/と同じニセモノ」はいくらでも存在する。

ここでは「金券」と呼ばれる、ビール券や商品券などの紙モノについて考えてみよう。金券偽造の最大課題は『紙』の選び方。
ここ数年、デパートや信販会社のギフト券やビール券など、金券を詐欺る事件が多発している。そのため各金券発行会社はホログラムを使ったデザインに一新、取引を中止するなど深刻な被害が出てやいる。かつては高度な技術を持った職人の領域とされた偽造であるが、カラーコピー機やOA機器の性能向上にともない誰でも手を出せそうな時代になってきた。

ホンモノと寸分違わない金券は、単なるコピー&製版という作業だけでは作り出すことかできない。偽造の最大のネックともいえる紙の問題が残るからだ。例えば大阪で国産のカラーコピー機で両面コピーした商品券とビール券をコンビニや金券ショップに持つ込んだ男が有価証券偽造容疑で逮捕されている。ま、犯人の気持ちはわかる。
最新機器でコピーされたビール券はまるで本物そっくりに見え、使ってもバレっこないと思ってしまったのだろう。だが金券は、換金するにせよ品物に替えるにせよショップの人間に手渡して使わなければならない。ここに、紙の聞題がからんでくるのだ。紙幣やテレホンカートなどのように自動販売機などに通るものであれば、機械内のチェックセンサーだけを編せればいい。
つまり、紙幣の識別センサーが人物肖像画の中心線にある場合、似たような紙に真札のその部分だけ細長く切って貼り付けたようないい加減なものでも“ホンモノ“とみなしてしまう。磁気情報などを利用してデータを記録するテレ力やパッキーカートなど、磁気の部分をコピーするだけでいいのも同様の理由だ。

ところが、人間の場合はそう簡単にいかない。機械の方が正確なように思えるが、人間センサーは視覚だけでなく触覚でもチェックするからだ。新聞によると、先の大阪の偽造事件でも、受け取ったコンビ二店員は断裁部分が不揃いだったため、その時点で不審に思ったという(ただしその場では言い出せず後で警察に届けたらしい)。

他の事件報道を調べてみても、発覚の端緒となっているのは「表面がスベスべしていた」「厚みがあった」などといっ受け取った側の印象によるものがほとんど。つまり、いくら表面の印刷をコピーできたところで印刷する紙を選ばないと偽造は完成しないのである。発行側にすればそんなことはお見通しで、紙幣をはじめとした金券の大半が市販されていない特別注文の紙を使用している。つまり、完成度の高い偽造を企むなら、実際に金券に使われてる紙を卸してる会社から横流ししてもらうか、ホンモノを分析して紙を作るところから始めなければならないのだ。

では、実際に金券がどうやって偽造されているのか、先の大阪の事件を例に取って考えてみよう。調べでは、容疑者の男性は昨年12月にデパートで商品券とビール券を購入。自宅で力ラーコピーを使って複写し、換金役に渡し金券ショップに持ち込んだり、コンヒ二での買い物に偽ビール券を使用したりしていたという。

おそらく容疑者は、最初にホンモノの券を見ながら紙を選んだはずだ。どこの会社のものかわからないが、仮に手元にあるアサヒビールのギフト券で考えてみる。と、洋紙の中でもお札に似ている洋和紙が使われていることがわかる。色は真っ白と言っていいぐらいの白だ。肝心なのは厚苦だ。ふだんの生活では紙の厚みなど気にならないが、実は紙の厚さは非常に細かく分かれており、金券を持った際の触感は、この厚みによって決まることが多い。ホンモノを持って大きな事務用品屋に行き、実際に触り比べながら紙を選べば、かなり近いところまで迫れるだろう。

紙を用意して準備が整っても、すぐにはコピーするわけにいかない。券面を見て、カラーコピーがどれくらい細かいものがコピーできるか。紙幣などに使われている微細な文字や模様は再現することができないのである。また、色の階調もそれほど正確ではない。特に青色系の色の階調再現性は期待できず、だからこそ金券には青系のインクが使われていることが多い。その上、箔押しと呼ばれる金や銀の色。さらにホログラムシールと呼ばれる虹色に反射する色はコピーでは再現不可能。ただ、箔押しの箔をコピーするためにはコピーした後にもう一度箔押しをすれはそれらしいものはできる。箔押しのための箔などは、印刷用の資材店に行けばいくらでも入手可能だ。

事件で偽造の疑いを持たれた原因が裁断面の不備だったように、コピーした紙の裁断方法も手触りを決めるポイントのひとつ。ホンモノの金券は精度の高い裁断機で一度に切断されるため、切り口が非常に鋭く、かつ揃っている。これを重現するには、同じような裁断機で切るのか一番だが、そうかんたんに利用できるものではない。そこで容疑者は身近にあるカッターで切ったのだろうか、これかなかなか難しい。

というのも、マットなとの柔らかいものを下に敷いて切ると切り口が刃の方向を向いて見た目や手触りか変わってしまうので、鉄板のような堅いものを下に敷き、定規をあてて一気に切る必要があるのだ。コピーした用紙を上下5-6枚の紙でサンドイッチにして力ットすればいいともいうが、口で言うのは簡単だか、何百枚ものビール券を実際にやるのはかなりの作業となる。ただし容疑者たちは、金券ショップやコンビ二で偽造券を行使して現行犯逮捕されたわけではない。

警察が偽造券を調べ、色調の特徴からコピー機の製造番号を特定。事件に使われたコピー機を販売した事務機器屋の帳簿からアシがついた。実は力ラーコピー機には、こうしたセキュリティが施されている。コピー機はトナーと呼ばれる磁性体で複写が行われるわけだが、色の成分などはコピー機のメーカーによって異なり、コピーされたインクを顕微鏡で分解して観測すると、どのメーカーで印刷されたのか、さらにはどの機械でコピーされたのか番号まで追いかけることが可能なのだ。

偽造犯はこうして摘発され、換金役は自動車のナンバーから判明した。コピーをすると文字が浮かび上がる地域振興券はどうだろう。対象が15才以下の子供と、65才以上の年寄りに限られたため、実際の券など見たことのない人が圧倒的に多く、なんだかスーパーのレジで適当な偽造振興券を出してもホンモノかニセモノか区別がつかないような気はする。
実際、すでに偽造とわかる地域振興券を使って精肉店で買い物をしようとした女性が京都に出没している。逮捕には至らなかったが、店員らに見とがめられホンモノの振興券を出して肉を買い去っていったそうだ。地域振興券は、使用者や期間を限定しているため、おそらくや大がかりな事件は発生しないだろうが、実は偽造が不可能じゃないことだけは断言しておこう。