泥棒・詐欺師犯罪例から考える防犯対策

実際にあった泥棒や詐欺のリアルな手口を犯罪者側の目線で物語風にご紹介。犯罪から身を守る手法を身につける参考にお役立てください。

男女紹介結婚相談所の詐欺業者の手口

これが男女紹介業者の宣伝であ
ることは明らかだろう。普通に考
えれば、恋人を探している男女を
繋げてくれる場、という感じか.

しかし、媒体が媒体である。

記事と見つけた夕刊紙の三行広告

といえば、ホテトルを始め
とした裏フーゾク業者がひしめく
場。金銭の介在を抜きにした健全
な出会いを提供してくれるとはとても考えにくい。


とりあえずかかれてあった番号
に電話をかけてみると、こんなテ
ープが聞こえてきた。
「パートナーセンター、M(店名
のイニシアル)です。Mは一般の男女をご紹介する

日本唯一のシステムで、今年で満9年を迎える

実績があります。

デートクラブテレクラではあ
りませんので、初心者の方でも安
心して即日にご利用することがで
きます。それではシステムを簡単
に説明します…」
内容は、やっぱり平凡な恋人紹
介業…であれば、わざわざこの本
で取り上げることもあるまい。
まずおかしいのは、「即日紹介」
をウリにしている点。この手の業
者で即日をうたうのは異例であり、
そういう意味では「日本初」なの
かもしれないが、とても現実的と
は思えない。サクラでも雇わない
限りできない離れワザだ。
が、ここはテープを聞けばわか
るとおり、「一般男女」を強く主
張している。ならば、どんな女性
会員を用意しているのか。
さらに、自動テープの後半に流れてきた

システム説明がどうもフ
に落ちない。おおまかな手順を記
してみよう。
①プロフィール、年齢、身長、血
液型を伝える。ただし、電話番号
等は聞かれない。
②希望する女性の年齢、身長、体
重、血液型を伝える。
③Mが持っているデータからこち
らの希望に合う女性をコンピュー
タで検索。

出てきた女性と、Mを
介して約3分間電話でしゃべる。
⑤女性とMへ来店するアポを取る。
⑥男性、女性ともにMへ来店し、紹介。
⑦目由にデートを楽しむ。
料金は、入会金が8千円、紹介
料7千円。さらに、紹介のコース
が3種類に分かれていて、割り切
りコース、マジメな男女交際コー
ス、結婚コースの中から選ぶこと
になっているらしい。
いかがなものだろう。よくいえ
ばユニーク、悪くいえば相当疑わ
しい要素に満ち満ちている。
確かに、①や②はどの男女紹介
業でも当たり前のように用意され
た項目だ。結果、③に至るのも不
自然じゃない。
問題は次の④。その場で女性と
電話で会話できる

コンピュータが選び出した相手と、会話ができるということ自体
は、単純に考えるかぎり親切なシ
ステムとも取れる。どうせアポを
取るのなら、トークのノリが合う
女性にしたいのは誰しも同じであ
ろう。
しかし、女性側だって仕事で遅
くなったり、他に予定が入ってい
たりして、その日のうちに連絡が
つかないこともあるはず。これを
含めた上で「即日紹介」と言い切
る自信はどこにあるのか。
また、割り切り(要するに援助)、
マジメな交際、結婚という選択肢
も、かなり大胆な分け方である。
援助や恋人はまだわかるにしても、
結婚だぜ、結婚。売春を仲介して
るような業者に、一生のパートナ
ーなんかお願いできるかっての。

自動案内テープの最後に「受付
のお電話番号は020の…」と携
帯の番号がアナウンスされていた
のので、そちらにかけてみること
にした。
「モシモシィー?」と出たのは、
テープの自動音声と同じカン高い
声の男だ。
「あの、入会したいんですけど。
今日紹介してもらえるんですか、
ホントに」
「ええ、大丈夫です。何ご覧にな
ってかけました?」
「Nっていう夕刊紙…」
「ああそうですか。ちょっと今ね
立て込んでるんで、5分後にまた
電話もらえますかあ」
どことなく落ちつきがなく、一
本調子の声。個人的にかなり苦手
なタイプだ。
5分後、言われるままに再度ダ
イヤル。と、相手は悪ぴれる様子
も見せず、先ほどとまったく同じ
ことを言う。その5分後はコール
音が鳴るばかりで、電話にすら出
ない。
いったいどうなってるんだ。俺
の経験から言わせてもらえば、こ
うやってマトモには取り合わず、
先延ばしにしながら客側の本気度
を確かめるのは、ウサン臭い業者
がよく使う手に他ならない。以前、
「裏モノ」で出張ホスト詐欺業者
に潜入したときもこれと似たよう
な応対だった。
が、この男の場合、聞く耳持た
ずというか、こちらが少しでも口
を挟もうとすると「お願いします」
と一方的に電話を切ってくる。こ
っちの方が本気度を確かめたくな
ってしまうくらいである。
何度かりダイヤルし、やっとつ
ながったのはそれから10分後。と、
今度は「こちらからかけ直すので、
携帯の電話番号を教えてくれ」と
いう。テープでは、電話番号はい
っさい聞かれないと言ってたハズ
だが。
「おかしいですね。こっちの番号
は教えてなくてもいいと思います
けど」
「じ、じゃ、もういいです。お断
りしますよっ…ガチャ」
オレはア然としてしまった。客
をなんだと思っているのだろう。
場合によっては、こうしたツレな
い応対にかえって信頼感を覚える
こともあるが、まさか「もういい」
とまで言われようとは。よし、こ
うなったら意地でも入会してやろ
うじゃないか。

1時間後、再びMへ電話を入れ
ると、今度は機嫌が戻ったのか、
男はマトモに応対をしてくれた。
とりあえず渋谷駅の近くまで来て
か借せとのこと.
急いで山の手線に乗り込み、駅
前のファッションビル「109」
の前から電話をかけてみる。
「ああ、さっきの方ね。希望する
コースはどれでしょ
オレは、マジメな交際コースを
選択これは決めておいた。
というのも、割り切りコースだと、
単なる援助希望のホテトル嬢を紹
介されるのがオチだと思ったから
だ。

一方、結婚コースは、どんな
女が出てくるのか見物ではあるが、
援助金ナシでヤレれぱ十分のオレ
にとってはあまりに荷が重すぎる。
恋驚らいで狙ってみた方がちょ
うどいいだろう。
とはいえ、どのコースを選んで
も、同じ女が出てきて「援助して
ネ」なんてオチがつくことも十分ある。何の属性もないこの
コース分けに翻弄されるのもバカバカしい。
「それじゃ、こちらの質問に答え
てもらえますか」
男が尋ねてきたのは、こちらの
年齢、出身地、住んでいるところ
(区名、町名など)、身長、体重、
血液型。オレは背格好以外、すべ
てデタラメで答えた。
「そしたらね、希望する女性のタ
イプをお聞きします」
今度は、希望する女の年齢、身
長、体重(ヤセ型かポッチャリ型
か)、住んでいる区域の質問。
「希望の髪型は?」
つえ-つと長い方…ですね」
「色白と焼けてるのどっち」
「…色白」
ずいぶん細かく聞いてくるもん
だが、オレの出した希望は「中
野・世田谷・渋谷区周辺に住んで
おり、身長低めで髪は
長め、ポッチャリ型でA型の色白
女性」。

当てはまる絶対数を考え、
なるべくありがちな答にしたつも
りである。
その後、男は何かを読み上げる
ような口調で

「女性会員と内密に
電話番号を交換したりしないこと」

「会うときは必ず事務所で待ち合わせてから」

といった規約を長々と語り始める。

にしても、つくづく神経に触るしゃべり方だ。
男が言うには、女性と3分間電
話で話した後、お互いの印象を
別々に尋ねるので、もし気に入ら
なければ何なりと言ってほしいとのこと。

逆に、女性が拒否する場合もあるので、承知しろという。
もちろん、事務所でのご対面は双
方のOKが出てから。面倒くさい
がここは従うしかないだろう。

「じゃ、こちらのコンピュータで
検索してみますんで、10分ほど経
ってまた電話ください」
指示どおりに電話をかけ、受付
番号を告げる。さあどう出るか。
「女性が見つかりましたよ」
ホントかよ
「いいですか、メモのご用意は。
まず、中野区にお住まいの野本さ
ん。この方、22才の美容師ね。も
う1人、世田谷区の林さん。

OLやってる方です」
これを聞く限り、条件は合致し
ているようだ。両者のうち1人を
選べと男は聞いてくる。
「じゃあ、野本さんの方を」とオ
レ。とはいえ、これだけの情報だ
から判断の根拠はない。
「わかりました。じゃ、いったん
切って今から言う電話番号へかけ
てください。そちらの回線の方で
お繋ぎしますので」
というわけで、教えられた一般
回線の番号へダイヤル。出たのは
やっぱり同じ男だった。どうやら、
事務所に複数の回線をひいている
らしい。そのまま待たされること
約2分。
「モシモシィ?野本です」
第一声は、確かに22才でもおか
しくはないほどの若い女のそれ。
さんざん男の声とトークを聞かさ
れただけに、俄然元気が出てくる。
さあここからが正念場。なるべ
くスマートに口説いて、会う約束
をしなくちゃ。と意気込んだところが。
「ねえ株山さん、今から会えますかあ」
オレがロクに自分のことを話さ
ないうちに、女はいきなりそう切
り出してきた。テレクラでも、こ
んなことは滅多にない。

それともよほど男に飢えているのかね、キミは。
「オレは会えるけど、野本さん、仕事はもう終わったの?」
「終わったよ」
「じゃ、今どこいるの」
「家。中野の方の」
「中野のどの辺?南口の方?」
「それは会ってから話すわよ」
結局、「30分後に事務所で待ち
合わせ」とのアポを取るのに、わずか3分とかからなかった。
ふと時計を見ると、午後8時過ぎ。

この時間にもう帰宅している
とは、さぞかしヒマな美容師なん
だろう。今ドキの美容室は、8時
くらいまでなら余裕でやっている
はず。明らかに不目然だ。

午後8時、オレは渋谷駅か
ら5分ほど歩いた裏通りに立って
いた。女とのアポが取れたことを
電話で告げると、この場所で待っ
ているように言われたからだ。
おそらく事務所のスグ近くと思
われるその界隈は、ちょっとした
オフィス街になっており、人影も
まばら。と、向こうからこっちへ
近づいてくる男が1人。
「株山さんですね。こっちへどうぞ」
漫才のセントルイスの背が低い
方に似たその男の身長、約140
センチ。カン高い声の主はこいつ
か。男は、スタスタとオレを先導
しながら、前方のマンションへ入
り、エレベータの4階ボタンを押
した。
「夜になると、ヘンな人が多くな
っちゃうんでね。だからこうやっ
て慎重になっちゃうの。わかるで
しよ?」
エレベータの中で男は言う。何
をワケのわからんことを・・・と思っ
たが、言葉の真意は4階の事務所
へ入った瞬間に判明する。
「アナタ、ちょっとその黒いバッ
グの中、見せてもらえませんか」
え?
「いやね、カセットテープとかカ
メラとかね、そういうの持ってき
て撮ってやろうって人がいちゃ困るからね」
いきなり冷や汗タラタラになる
オレ。バックの中には部屋の様子
を隠し撮りするためのカメラを忍ばせておいたからだ。
結局は、たまたま入っていた週
刊誌に挟まっていたのでコトなき
を得たが、あきらかにマスコミの
潜入取材を警戒しているのがわか
る。逆に売り込んでくるのならわ
かるが、これでは後ろめたさを露
呈しているようなもんだ。
事務所は、8畳ほどの典型的な
ワンルームだった。さっそく中央
ソファに座らせられる。
が、肝心の野本嬢は見あたらな
い。待ち合わせの9時までには10
分少々あるから、少し早く来すぎ
たか。
Mの入ったマンションは渋谷駅から歩いて約5分のところ
「あの、野本さんはまだですか」
「野本さん?ああ今は青山店の方
で受付されてるんですよ。ちょっ
と彼女の都合で、この後にお会い
してもらうことになっちゃいまして」
なに?そんなことは一言も問
いとらんぞ。彼女とは「9時に渋
谷の事務所で」とハッキリ約束し
たはず。だいいち、なんなんだ、
青山店って。男はこのスグ近くに
ある支店だと言っていたが、それ
ならなぜここへ呼んでもらえないのか。
「野本さん、こっちに呼んでもらえませんかね。私、待ちますよ」
オレがそう言うと、男はムキに
なりながら「後で必ず会えますから」と繰り返す。
まあいい。確かに、恋人を探し
ている男女を初顔合わせさせるの
に、こんな狭苦しい部屋じゃあん
まりだろう。おまけにさっきから
鼻を突くこのニオイ。ネコを飼っ
ているのだろう、独特の動物臭が
漂っている。
ン?突然、部屋の中を見回した
オレは、ある重要なことに気づく。
ない。膨大な会員データが詰まっ
ているはずのコンピュータの類が
見あたらない。これも青山店にあ
るってワケか?
が、そんなこと以上に怪しいの
が、ここMのホントのシステム・
そこには、否が応でも客に金を払
わせるための実に巧妙な仕掛けが
組まれていたのである。

男が改めて話したMのシステム
を大まかに説明しよう。少し込み
入っているがよく読んでほしい。
まず、入会金は男女とも8千円。ここまではいい。あざといのは、
紹介に際しての料金の方だ。
実は、紹介料の7千円は、あく
まで1回の紹介料。紹介を5回分
希望すれば、7千円×5の3万5
千円が必要になるらしい。
しかも、特典として6回分、つ
まり4万2千円以上の紹介料を払
った男女には、カップル成立とな
り次第、その半額以上の商品券を
プレゼントしているという。VI
SAや大手デパート系のモノなの
で、金券屋で現金に変えることも
可能とのことだ。
当然、紹介の回数が多ければ多
いほど、カップルになれるチャン
スは増える。男が「6回以上の方
がおトクだよ」としきりに勧めて
きたのも納得がいく。
結局、オレは1回分の紹介を希
望した。とにかく女に会えれば必
ずなんとかなるだろうと踏んでい
たのだ。ダダでホテルへ行けると
いう目算もないではないが、2人
きりに持ち込んでしつこく追及す
れば、Mの真偽も明らかになるだ
ろう。
ところが、ここに最大のミソと
いうより穴があった。実は、一種
の還付金ともいえるこの商品券、
たとえカップルが成立したとして
も、両者のうち「希望していた紹
介回数が少ない側」の分しか受け
取ることができないのだ。
例えば、最初に6人の紹介を希
望していた男と、9人紹介希望の
女がカップルになったとしよう。
すると、回数の少ない方、つまり
男の6回分に応じた枚数の商品券
しかもらえないことになる。
ちなみに、今から会う野本なる
女性の希望はなんと10回分。彼女
は恋人欲しさに7万8千円もの金
をこのMに払っているらしい。
才の美容師という身分からすれば、
破格中の破格だぜ。
仮にオレとウマクいっても、こ
っちはわずか1回分なのでもらえ
る商品券はゼロ。
「だから、1人分だとまず間違い
なくチェンジされちゃうって言っ
てるじゃないですか。それでもい
いんですか」
「結構です。紹介は1人だけにし
てください」
オレはしつこく営業してくる男
を振り切り、そう言った。こっち
の狙いはさっきと変わらない。力
シプルになれる保証もないのに、詔
誰が7万8千円も払うかつつ-の。
「では、渋谷駅に着いたら電話を
くださいよ・野本さんとはそこで
待ち合わせしてもらいますから。
…まぁたぶんチェンジですけどね」
しつこいヤシだな、オマエも。
この時点でなんとなくオチが見え
かけていたオレだったが、勝負は
最後までわからない。
「わかりました」と部屋を去ろう
とした瞬間、いちばん重要な質問
を聞き忘れていたことに気づいた
オレは、クルリと振り返って男に
尋ねた。
「女性会員の方はどこで募集をか
けているんでしたつけ」
返って来たのは、およそ結婚な
どとは結びつかないこんな答。
「出会い系です」
歩いて渋谷駅に到着し
たオレは、Mへと電話を入れた。
すると男はいったん切ってくれれ
ばすぐにかけ直すと言う。もうい
い加減にしてくれ。
ピピピッ。携帯が鳴った。

またあの男の声を聞かせるのか。ウン
ザリしつつ、電話を取ると、聞こ
えてきたのは野本嬢の声
「紹介がたったの1人って聞いた
んで、チェンジしたんですよぉ」
なんとなく予想はしていたオチ
だった。この女、おそらくやサク
ラだったに違いない。
「会ってもないのに、なんでチェ
ンジするんだよ」
「だってえ…。じゃあ、残りの9
回分、払ってくれますかぁ」
結局、「金ならあるから」とい
うオレの誘い文句に乗ることもな
く、一方的に電話を切った野本。
驚いたのはその直後だ。
「あのね、さっきマジメな交際を
申し込んだわけでしよ。アナタが
言ってるのは援助ですよ、援助。
どうりで最初からヘンな人だなっ
て思ったんだ…」
カン高い声の主は、誰あろうあ
の男。ヤシは、オレたちの会話を
盗み聞きしていたのだ。
その翌日、知り合いの女性ライ
ターに頼んで、Mへこんな電話か
けてもらった。
「もしもし、あの-アルバイトを
募集してるって聞いたんですけど」
要するにカマをかけて、相手の
リアクションを確かめようという
魂胆だ。が、「バイトは募集して
ません!」と一蹴されてしまう。
その1時間後だったろうか、オ
レの携帯に電話が入った。出ても
一瞬で切れてしまったので会話に
ならなかったが、相手の声は確か
にこう言っていたと思う。
あんまりナメたマネするんじゃないよ
Mがサギ業者である疑いは、限
りなく強い。あくまで推測だが、
どんなコースを選ぼうとも、いく
ら紹介料を積もうとも、たとえ女
と会えたところでチェンジされる
のがオチなんじゃないか。そのウ
サン臭さは、男の言動や部屋の様
子からも十分匂ってくる。
余談だが、事務所の帰り際、パ
ンフレットはもらえないのかと男
に要求してみたら、「マネされち
ゃうから」と拒否されてしまった。
が、今になって思えば男の言い分
には大賛成である。Mのシステム
がマネされなければ、その分ダマ
されるヤシだって増えずに済むの
だから。