泥棒・詐欺師犯罪例から考える防犯対策

実際にあった泥棒や詐欺のリアルな手口を犯罪者側の目線で物語風にご紹介。犯罪から身を守る手法を身につける参考にお役立てください。

高級車を盗難して海外で転売する奴ら

実はこの人物こそ、今回「キック屋」としてご登場願う寺本氏(仮名)である。
昔の不良時代を思わせるちょっとリーゼント気味の髪型、真っ黒いシャシに赤いネクタイ。

いかにもいかがわしい雰囲気のこの男、果たしてどんな商売でしのいでいるのか。
「簡単に言うと海外へ播難車を輸出する仕事。ケータイー本あれば済むラクーな商売だよ」
怪しい男の怪しい話が始まったクルマを買い漁る関西弁のロシア人7,8年前から中学んときの同級生2人とクルマ屋やってるんすよ。

中古車の仕入れと販売店への卸。店舗を持たずに売買する、ブローカーってやつね。仕入れ先は下取りが半分、あとはオークションだな。
中古車のオークション会場って行ったことある?それこそ東早ドーム何個分って感じのダダっ広い場所に、いろんなクルマがダーツと並んでて、気に入ったものをコンピュータで落札していくっていう、ま、要は業者のための競市みたいなもんなんだけど、オレらそこに買い付けと出品、両方して垂たのね。

売買の相場価格ってクルマのコンディションで決まるんだよれフッー。年式、走行距離、修理歴、あと色、ABSとかCDチエンジャーなんかのオプション、そういうのを見れば、だいたいの価値はわかる。
ところが今から3年くらい前かな。妙な業者が会場に出入りしだして、いつも相場を無視してガンガン買いまくるわけ。普通20万くらいで競り落とすようなクルマを、30万で落札してる。
ありえないですよ、マジで。当然気になるよね。いったい何者なんだって。
それが間もなくわかったんだよね。オークション会場では後商談といって、落札されずに流れたクルマに直接商談をかけることがあるんだよ。

例えば、オレが最低希望価格30万でクルマを出品して、誰も買い手がつかなかったとする。
こうした場合、後で「さっき流れたクルマ、27万で買わせてもらえないか」って交渉をするの。これが後商談。
でね、いつのころからか、オレや仲間の業者にやたら後商談を持ち掛けてくるイワノフっていうロシア人のオッサンが現れたんだよね。
気持ち悪いくらい日本語がベラベラで、おまけに関西弁。

「マケてくれまへんか?」みたいな(笑)

身なりはビシつとスーツなんだけど、それが逆に信用できそうにないっていうかさ。
で早い話、コイッが噂の買いまくり男だったってわけ。

もっともっと欲しい。盗難車でも構わない
すぐに察しはついたよ。このオッサン、国産(車)を本国に流して稼いでるなと。ロシアあたりじゃクルマはまだまだ高級品で、日本の何倍も儲かるって話だったからさ。
ただ、日に3回も4回も後商談に来られると、こりやどうしたもんだろうって不思議には思うよね。
そんなにサバけるのかよオイっていう。でもオッサンそのうち「1台残らず全部買うから、直売してくれないか」とまで言い出してさ。
確かにそっちの方がお互い手っ取り早いし、オークションに出した
ら会場側にマージンだって取られちやうんだけど、さすがに全部買
うってのは怪しすぎるじゃん。


けど、イワノフは「絶対買うか
ら信用しろ」って聞かない。で、
そこまで言うのならって、下取り
したクルマを彼のところに直接納
車し始めたわけよ。


パターンとしては、「明日は力
ローラ2台、パジエロ2台ね」と
事前に電話を入れとく。んで週3
日、毎回約2,3台のぺlスで×
×港近くの空き地に自走で持って
いって、その場で現金と引き替え
に渡す。


あとはイワノフ軍団が港まで自
走で持っていってコンテナに積む
っていう段取り。何でも××港か
らロシア行きの船が出てるらしい
んだよね。


しかも「要らない」って断られることはまずないからめち
ゃオイシイよれ。イワノフ、あん
たはなんてイイ人なんだって心底感謝したよ(笑)。


もちろん、車種のリクエストはあるよ。よく言われたのは4駆、
RV系ね。ランクル(トヨタのラン
ドクルーザー)とか、パジエロ(三
菱)、テラノ(日産)、RaV4(ト
ヨタ)あたり。これはとにかく金
持ちに需要があるみたいなんだよ
ね。あとは、力ローラとかコロナ、
サニーなんかの安いセダンだな。
この手は向こうでもちょっとした
金持ちの乗る車なんだって。逆に、
高級セダンのセルシオとかシーマ
は人気ないって言ってたな。

宿題をマジメにこなす小学生のごとく、相手の希望に添った中古
車を見つけてきては得体の知れな
いロシア人に買ってもらう日々。果たして、最初の月で400万の
上がりが出た。仲間で分け合って
も、生活するには十分な棚である。
が、イワノフの要求はさらにエスカレートしていく。


「もう少し多めに持ってこれない
かって電話が毎日かかってくるん
だよ。どうやら他にも仕入れ先が
あるみたいで、他の連中は一度に
5台持ってきてるぞとかね」
ナゼだ。なんでコイッら、こん
なに強気な商売ができるんだ。日
本のクルマはロシアじゃそんなに人気なのか。

オレらの雰囲気を察して「コイッらなら盗みもやる
だろう」と近づいてきたんじゃない?さすがのロシア人
も、日本でクルマをパクリまくる
ネットワークは持ってないからね。


で、お望みどおりやらせてもら
いましたよ。
オークション会場には週に2,3回は足を運んでるのね。そ
こ行けばもう何万台ってクルマが
陳列されてて、誰でも自由に出展
車に乗り込めるの。しかも、すべ
てのクルマにはカギがつけっぱなしだよ。

だから粘土板で、善見てないスキに型を取れば…もう言わない
でもわかるでしよ。知り合いの力ギ屋に型版を持ち込んで、カギを
コピーすればいい。まあ、その気になればラクショーだよね。

んで、その後だいたい1カ月く
らい待てば、クルマはどこぞの業
者に流れるか一般客に購入されて
るから、作ったコピーキーで盗み
に行くだけ。ほら、クルマってい
うのは車種と車体番号さえわかっ
ていれば、陸運局で現在の持ち主
の名前や住所があっさり割り出せるじゃん。

盗むときなんて簡単なもんだよ。
普通にカギ開けて、ブーンって乗
ってくりや…。ホント、持ち主が
その場にいない限り絶対バレっこ
ないって。もっとも、そういう現
場仕事は金のない後輩に全部任せてたけどね。
あれ、もしかして中国人窃盗団
みたいに、特殊工具で旧秒もかか
らず開錠とか、そんなの想像して
た?イヤイヤ、現実はもっと単純でエゲッないの。

罪悪感なんてあるわけない
クルマ盗むことを覚えちゃうと、下取りなんてバカらしくてさ。ソッコーで盗みオンリーになったんだよれ。
ただ、そうなるとオレらのリスクも増すわけだから、改めてイワ
ノフと契約したんだよ。お互いフ
ィフティフィフティにしましょう
と。つまり、オレらが×日までク
ルマ3台保証するって言って持っ
てこなければアウト。逆に、イワ
ノフ側がクルマをその日のうちに積み込めなくてもアウト。

夜盗んだモノは、たいてい次の
日の昼間にはロシア便に積まれる
ことになってるんだけど、もし問
に合わなければ足がつくじゃん。
だからこの条件をどっちかが破れ
ば互いにご破算にしようって。外
人はその辺すげえシビアだから、
1回決めとけばキッチリ守ってくれたね。

そんな感じでオール盗難車でや
り始めてからは経費さっぴいても1人250万は堅かったね。
実際ね、オークション会場は選び放題なんだよ。イワノフのオッ
サンが「次の回は全部4駆にした
い」とか言えば云う月はランクル
強化月間!」とか言ってそればっかり揃えたり。

ランクルなんかは当時中国人窃盗団なんかの餌食になってた
から、オーナーはみんな車両保険
(盗難保険)かけてたんですよ。だ
から盗んでも全然、心は痛まなかった。
ただ、オークション会場があん
まり重なりすぎないようには注意してたよね。
会場は全国にあるんだけど、オ
レらが行けるのは、東は宝示、西
ならせいぜい岡山くらいなのね。
その範囲だとデカイ会場なんか5軒ないんじゃないかな。いつも近いところで【シゴト〕してるとヤバイんだよね。なんて盗難情報がすぐ飛び交うから。