泥棒・詐欺師犯罪例から考える防犯対策

実際にあった泥棒や詐欺のリアルな手口を犯罪者側の目線で物語風にご紹介。犯罪から身を守る手法を身につける参考にお役立てください。

甲子園の高校野球、プロ野球の野球賭博をやるノミ屋

壁面に並べられたテレビモニタ
ー。その下には、甲子園、和歌山、
大宮といった文字が踊り、新聞の
コピーが束になって吊るされてい
る。ノミ屋だ。
「鳴門、終わりました」
「大宮入ります」
カウンターから女性の大きな声
が聞こえてくる。座席がないため
立ちっぱなしのおっさんたちは、
その声に合わせてあっちにウロウロ

こっちにウロウロと体を動かす。
競輪も競艇もさっぱりわからな
い僕も、せっかくだからと遊んで
みることにした。なにせ丁半で4
万円も手にいれたのだ。このツキ
を利用しない手はない。
まもなく甲子園競輪の第2レー
スが始まる。新聞のコピーには、
立川の先行に杉山の援護、竹中が
決め足復調などと書いてあるが、
何のことやら。結局のところ誰が
強いんだよ。
ま、あれこれ考えてもしかたな
いので、とりあえずは吉本と西山
の214を5千円購入することに
した。
カウンターに座るおっさんに千
円札5枚を突き出す。「甲子園、214」
「甲子園ね。シャ?ワク?」
「えっと、え-、シャ」
「シャね」
競馬に馬連枠連があるのと同様、
競輪にも車連と枠連というのがあ
るらしく、「シャ」と口走った僕が買
うことになったのは車連の214。
付菱のような形をしたぺラペラの
車券が手渡される。
レースは静かに始まった。出走
と同時にカウンターから「甲子園
終わり」の声。さすがノミ屋、出
走ギリギリまで受け付けているよ
うだ。
いったい何周でゴールするのか、
そもそもどうして最初はのんびり
走っているのかすらわからない僕
も、周りの盛り上がりに合わせて
食い入るようにモニターを見つめ
た。
結局、2番吉本は1着で来たの
に、4番の西山は3着。2着は5
番の永松とやらで決まりだ。
「おら、西山、何やっとんじゃ」
という罵声は飛ばず、おっさん
連中はブッブッと小言をもらすの
み。どうやら妥当な結果だったよ
うだ。と、ちょっと待てよ、これ、枠で買ってたら取ってたんじゃな
いか?なんてこった。
休む間もなく、今度は大宮の第
3レースが始まる。
「相原を目標に石井のチャンス」
相変わらず新聞のコメントはわ
けがわからないので、とりあえず
石井と宮本の315に2千円の勝
負。来ればいくらだ。う-ん、オ
ッズすらわからん。
でたらめに買った車券が当たる
はずもなく、またしても2千円の
散財。取り戻そうと目論んで、各
地で次々と出走するレースに賭け
続けたら、あっという間に丁半の勝ち分が
「どうです?」
ノミ屋側の人間らしき若いにい
ちゃんが声をかけてきた。
「いやあ、アカンねえ」
アカンに決まってる。第一、新
聞の読み方さえわからんのだ。競
艇にいたっては、ゴール後も誰が
勝ったのか不明である。
と嘆いていたところ、壁に「1半
1」や「1半2」といった表が貼ら
れているのを発見。なんじや、これ。
「ねえ、これ何」
にいちゃんによると、これは野球のオッズらしい。

春と夏の高校野球、プロ野球のシーズンにはこ
こで野球賭博もできるのだという。
いや-、なんて素敵なところなん
だろう。冷蔵庫のジュースは飲み放題、
ぶつかけご飯も食べ放題というノ
ミ屋の鴬は居心地がいいが、こ
のまま執呉に身を任せていては金
が持たないと判断した僕は外へ出ることにした。
公園のあちこちで古い建材が燃
やされ、火の粉を上げた炎の周り
では虚ろな目をしたおっさんたち
が、何をするでもなくただボーッ
と立ちすくんでいる。
無法地帯の中心となるべき場所
で、ビニールのヤッケが溶けるほ
ど長いあいだ火にあたっていた新
参者の僕なのに、誰もからんでこ
ないし、話しかけてもこない。
のんびりしたムードは飲み屋も
同じで、少々大きな声で騒ぐ者はいても、タチの悪い酔っぱらいや
喧嘩は見られない。逆に暖かな歓
待を受けるぐらいだ。
「ほい、これ」
隣のオヤジから差し出されたの
はワンカップ。日本酒はあんまり、
と言うのもどうかとチビチビ飲み
干すうちに、怖さなどすっかり吹
き飛んでしまい、ずいぶん気分が
良くなってきた。
なにより食い物が旨い。煮込み
にしろ、しらすおろしにしろ、決
して手が込んでいるとは言えない
が、雑なぶん単純に旨い。
そしてもちろん安い。千円札1
枚で十分酔えるし、2枚あれば吐
いてしまうだろう。くだらない居
酒屋で飲むのがバカらしくなるほ
どだ。昼間から誰にも干渉されず
酔っぱらうことがこんなに気持ち
いいことだとは。おーい、おばち
ゃん、ビールもう1本。
夜の9時。おっさん連中は意外
と早く宿に帰ってしまうみたいで、
レースの終了したノミ屋はもちろ
ん、路上賭博も終わってしまった。
後に残るのは、昼間からずっと同
じ場所で焚火にあたり続けている
おっさんたちぐらいだ。

宿舎への帰り道、阪堺電鉄脇の
とある辻に3人ほどの若者が立っ
ていた。服装や年齢から、明らか
にこの辺りの住人ではない。いか
にも怪しげな男たち。僕はFAX
の中にあった一文を思いだした。
lここでシャブを売っていますl
買っているのは誰なのだろうか。
僕の見た限り、三角公園にはシャ
ブを使用しているようなアッパー
系のオヤジはいなかったが。
が、すぐ近くの教会の壁には、
親切にもアヘンに始まりLSDや
コカインの危険性について記され
た看板が。やはりこのあたりの住
人が客となっているのだろうか。