泥棒・詐欺師犯罪例から考える防犯対策

実際にあった泥棒や詐欺のリアルな手口を犯罪者側の目線で物語風にご紹介。犯罪から身を守る手法を身につける参考にお役立てください。

家宅捜索ガサ入れされたら逃げられない

「前にもガサ入れの話があっただ ろう。今回だけはどうなるかわか らないぞ。俺はー人でもガサ状をとれる場にあるんだ」 これには少々説明が必要だろう。 以前、我々の事務所にガサが入るという噂が流れ、記者仲間がら警・ 察筋に探りを入れ、必死に情報を 収集したことがある。

もちろん、私が犯罪に手を梁めるようなことは一切ない。おそらく未解決事件で警察すらまだ把握していない情報が我々の事務所にあったのかもしれない。

結局、そのときはうやむやのまま難を逃れたが、ここまで脅迫めいた言葉を受けたことはない。

「沢田さん、それは問題発言じゃないですか。こちらにも考えがありますよ」

今度は情に訴えてきた。

「俺の大事な部下なん だよ。だから今回は当たらないでほしいんだ。彼を巻き込みたくないからね」

沢田氏は一方的にそう言うと、 最後に念押しして去っていった。

恐怖と憤りで冷や汗がたれてくる。 
取材車の近くで空き地を撮り続ける男 
警察、それも公安からこんなマ ークを受けながら、果たして取材はうまくいくのだろうか。

判断に困った私は、さっそく編集部へ連絡を入れた。

車を尾行されたこと、 公安幹部からの接触があったこと。 これまでの経過をすべて、指示を待つ。

ひと通りの事情を飲み込みながらも、5氏は

「横山氏はもちろんだけど、どうせだから塚原氏に も当たっちまおう」とあっさり。 まったく心強い。 おそらく、塚原氏には公安から手が回っていて直接話はできない だろう。そうわかってはいるが、 記者は無駄足を踏んでナンボの商売。

5氏と私、さらに他2名の記者を加え、我々は車で塚原氏の自宅へと向かった。

当の塚原氏はあいにく留守だっ たが、玄関に「3時には戻りまご との貼り紙がある。時計を見れば、 午後2時半。我々は少し離れた路 上に車を停め、30分ほど待機する ことにした。場所は人通りの少な い幅5、6mの道路である。

「おい、ありゃなんだ」

怪詩そうな表情で5氏が言った。 彼の視線の先を見ると、車を停め てた首両かいの空き地に、スーツ を着た20代後半の男が立っている。 さっきまでは誰もいなかったのに。 さらに、空き地の前にはいつの 間にかトョタのビッツが停まって おり、運転席に40代と思われる男 が座っていた。

空き地に立っていたスーツ男は、 おもむろに取り 出すと、空き地の撮影を始めた。 あ、ありゃ不動産業者じゃな いですかねえ」

5氏が返す。

「こっちを撮られたらやだなあ」

まさかと一笑したとたん、彼の カンが的中。スーツ男は空き地の みならず、レンズを我々の車に向けているふうなのだ。

が、空き地の向こう側からこっちを向いているので、被写体が地面なのか我々の車なのか、はっきりと判断がつかない。その間にも、 スーツ男は小刻みに場所を変え、 パシャパシャとシャッターを鳴らしていた。

いきなりレンズが こちらの正面を向いて… スーツ男は四角い空き地の四隅から、方向を左右にずらしながら 連続して4カットほど撮影したが、 決まって4カツト目はレンズを少 し上向きに構える。

単に空き地を 撮っているにしては、あまりに懲りすぎといつか、どう見ても不自然な角度だ。

そして、ついに決定的な瞬間を 迎える。車の前方地点 に背を向けて立ったスーツ男がカメラを構え、ーカット目は空き地 を、2カツト目はレンズを少し右 に振って空き地の右半分を、そし て3カツト目はさらに体を

空き地とは関係ない道路の方を 向き… ヲイォイ、待てよっ

5氏が叫ぶ終わる前にコトは済まされた。そう、4カツト目は 我々の亨せ至近距離の真正面からとらえたのだ。

フィルムには、助 手席に座っていた私の、顔全体で つくった驚きの表情が焼き付けら れたに違いない

一瞬、唖然として動けなくなったがA氏は自分の名刺を取り出 し、抗議にいく構えを見せた。

ところが、スーツ男は最後のシ ャッターを切るやいなや、そそく さとビッツの助手席に乗り込み去ってしまう。かろうじて車のナンバーは控えたものの、車内には重苦しい空気が。みんな出来事を頭の中で反しているのか、誰も口を開こうとはしなかった。

時計を見ると、3時過ぎ。再度、 塚原氏の自宅に向かうが、あいに く本人は不在のまま。結局、夜に なっても帰宅した様子はなかった。

もしやあの貼り紙は、我々を引き 留めておくための仕掛けだったのだろうか。

同日夜、さっそくビッツのナン バー照会をすると、車は名古屋市 ・内にある大手リース会社の所有と判明。また、地元紙記者らにこれまでの経緯とを合わせて話してみ たところ、思ったとおりの答が返 ってきた。

マりゃ聞運いなく警察だよ。あそこの会社は、県庁とか市役所の車のリースもやってるからね。公安が警察の車を使えない事案を追うときに、あのリース会社のを使うんだ。結構、有名な話だよ

まったく我ながら浅はかだった。

公安の沢田氏から教えられた場所に、ノコノコ取材に出かけてい なんて、写真を撮ってくれと言ってるようなものだ。

瞬間、県警公安の沢田氏の一言が脳をよぎる。

積山には触るな

横山氏本人への取材を敢行すれ ば、きっとまた公安が待ち構 えているに違いない。かといって、 彼への取材は避けては通れまい。 事件記者として、こんな圧力に負けてなるものか。