泥棒・詐欺師犯罪例から考える防犯対策

実際にあった泥棒や詐欺のリアルな手口を犯罪者側の目線で物語風にご紹介。犯罪から身を守る手法を身につける参考にお役立てください。

犬にかまれたから治療費を!ドッグラン狙いの悪質噛まれた詐欺にご注意

 

高速のサービスエリアで、妙な場所を発見した。
ドッグラン。
高速利用者が、同伴したペット犬を遊ばせるためのスペースで、従業員によれば、同じような施設は全国の高速道路にもあるという。


何気なく柵ごしに中をのぞくと、いろんなタイプの犬が、リードもつけずにそこかしこを走り回っている。

ふーん、近頃のワンコロは幸せよのう。しばらく様子を眺めているうち、頭の中でぴかりと豆電球が点灯した。ふーむ、この状況、上手く利用すればゼニ儲けできるかも。
俺がひらめいたアイディアは実にシンプルだ。


ドッグランで野放しになっている犬に近づき、そいつに噛まれたふりをして、その場で飼い主から慰謝料をせしめようというのである。言ってみれば、当たり屋と同じ理屈だが、成功率はかなり高いとみた。

もちろん根拠はある。

まず第一は、犬が他人を傷つけた際に生じる、飼い主のさまざまな負担だ。被害者への治療費や慰謝料の支払いのほか、保健所への報告、狂犬病の鑑定などなど。かつて俺自身も飼い犬が近所のガキを噛んだことがあるので、その面倒さはイヤというほど知っている。そこで、その心理を逆手にとり、こう提案すればどうか。

「お互い忙しい身でしょうから、この場で治療費をいくらかいただければ、もうこの件はなかったことにして構いませんよ。医者には、野良犬に噛まれたと言っておきます」
飼い主にしてみれば願ってもない寛大な対応。

ましてや旅先でのハプニングとあれば、被害者を病院へつれて行くような面倒事はなおさら避けたいものだ。金を出すだけで済むならと、よろこんで治療費を差し出すに違いない。

問題はその額だが、ドッグラン利用者の大半は見るからに裕福そうで、事実、高級外車でやってくる連中も少なくなかった。そもそも貧乏人というのは、旅行にわざわざ犬コロを同伴させたりはしないものだ。
そういう上流家庭の人間が、治療費を要求する人間に対して、たった数千円しか支払わないなんてことは考えにくい。

少なくとも2、3万くらいは気前よく包んでくれるのでは。さっそく不良仲間を連れて、ドッグランのある常磐道の某SAへ向かった。

作戦は、すでにできあがっている。
まずは、ドッグランの外で高級車がやってくるのを待ち、ターゲットが現れたら犬の噛み傷を偽装する。

使うのは通販で買った犬の頭がい骨模型で、コイツの牙に手を押し当てた状態で、上から叩きつけるのだ。さぞリアルな噛み傷ができるだろう。
準備が整えば、いざドッグランへ。友人が飼い主に話しかけている間、俺は「かわいいですねぇ」

とか言いながら飼い犬をあやし、スキを見てクギで犬のケツを突く。当然、犬はキャンと悲鳴をあげるだろうから、そのタイミングで演技をかますのだ。
「痛っ、かまれた!」
完璧じゃん。しばらく売店前のベンチで周囲の様子をうかがっていると、1台のBMWが現れた。中から出てきたのは、子供連れの若い夫婦、そして1頭のトイプードルだ。
「おい、あれにしようぜ」
「だな」
すぐさま自分の車に戻り、犬の頭がい骨模型を取り出す。両アゴに右手を挟み、別の手
で思いきり頭頂部をなぐると、血のにじんだ黒い穴が3つ、ぽっかりと空いた。

くぅ、まじイテぇ!負傷した右手をズボンのポケットに隠し、ドッグランへ向かった。友人がわざとらしい笑顔を浮かべ、飼い主の夫婦に近づく。


「うわぁ、かわいいトイプードルですね。オスですか?」
「うちのは女の子です」
「へえ。僕もオスのトイプードル飼ってるんですよ。ただ、むだ吠えが治らなくって」
「だったらいい方法が…」
どうやら上手く取り入ったようだ。

それまで友人のとなりでニコニコと立っていた俺は、おもむろにしゃがみ込み、犬の頭をなで始めた。クギで刺すところを見られないよう、ターゲットに背を向ける形で。

よし、今だ。ブスリ。
「キャン!」

「痛っ!」
右手を押さえて勢いよく立ち上がると、夫婦が血相を変えた。
「だ、大丈夫ですか!?」
「イタタ、噛まれちゃいました。機嫌わるかったのかな」
「申し訳ございません…」


彼らの暗い顔つきから、あーあ、せっかくの旅行中に面倒くさいことになったぞという心情が透けて見えた。では、助け船を出してやろう。
「お互い旅行中のことですし、治療費だけ負担していただけますか。それでこの話は終わりにしましょうよ」

言った途端、夫婦はホッと安堵し、財布から現金を取り出した。諭吉3枚。出だしとしては上出来だ。

当然のごとく、その後も俺たちは同様の手口を繰り返した。毎日のように各地のドッグランに出向き、1日平均5回、多いときで10回以上「噛まれたー」と演技しまくったのだ。こう言うと、さぞ大儲けしてるのではと思われるかもしれんが、実際は、さほどでもなかったりする。
最大の誤算は、「金持ちほどセコい」という真理を忘れていたことだ。

恐縮して5万、10万を支払う人間もいるにはいるが、そんなのよりも、1万円すら出ししぶる輩が圧倒的なのだ。